一番安いのは深夜バスだ。
だから今回も利用した。福岡まで移動してそこからバス、大阪の乗り換えを挟むと片道だいたい十六時間。そのなかでも特にチープな便しか使えないから、独立シートなんて夢のまた夢、ふたりがけの窮屈なシートだ。細い肘掛けを隣と分けあい、前の席の背もたれがぐっと迫ってくる。網ポケットはゴムが伸びていて、入れたスマホがなんだか落ちそう。ちゃんと男女分けてくれているけど、隣席の女性が神経質そうだったりすると、水筒の蓋の開け閉めすら緊張して居心地が悪い。
なかなか寝つけないのはいつものことで、ようやくウトウトしたあたりでトイレ休憩、サービスエリアですよと車内灯に起こされるのもいつものこと。真夜中も暑いこの季節、コンビニの誘蛾灯はけっこうすごいことになっている。
今回も、
七夜 あおいは寝不足のまま新横浜駅に到着した。頭に霞のかかったような状態で早朝の電車を乗りつぐも、うっかり乗り過ごしそうになり、バイト帰りのバスでおなじみの「降ります降ります!」が反射的に口をつく。閉じかけのドアに突進して、ほうほうの体でねこでんまでたどりついている。
声にならない声が出た。
ほかに誰もいない車内。右の窓にも、左の窓にも、青い海がひろがっていた。
ようやく生き返った心地がした。やっぱりここが故郷なんだな、って思う。
寝子島。
たった三年すごしただけの土地、あおいの高校生活がすっぽり収まる数字だ。でもあの三年間は、あおいのなかでは十二年にも思える。

専門学校の夏期休暇は短い。いずれ実家にも立ち寄るから、今日から二日だけ、あおいは寝子島で過ごす。
何をしようか。
まだ決めていない。なんなら、日がな一日
野々 ののことおしゃべりして終わりでもいい。
特別なことなんて必要ないのだ。あおいにとっては、島の空気を吸うこと自体が、じゅうぶんに貴重なことなのだから。
~~~
なんだよ、と
雨梨栖 芹香は
詠 寛美を見て怪訝な顔をした。
「ニヤニヤして」
本日も稽古終わり、道場の大浴場である。広い湯船の端と端、「ゲッフーイ」とオッサンじみた声を上げて湯に体を沈めた芹香は、向こうの端で頭にタオルを巻いた寛美が妙に上機嫌なことに気づいたのである。
「ニヤニヤ? してねーぞ」
エコーのかかった声で寛美は言ったけれど、屋上でだらけていたところへ体育教師が現れて、急に真面目ぶったような顔をしていた。要は、作りものだ。
「嘘つけ。鼻歌まで唄いやがって」
「唄ってなんか」
「あるわい。お天道様が見逃しても、この芹香さんの目はごまかせねえ。さっき『♪ふんふんふーんふん』ってやってたの、あらなんだ?」
「……『マック・ザ・ナイフ』」
「なんだそら」
「昔のジャズの名曲らしい」
「なんでまた──あ!」
わかった、と言うなり芹香は湯船のなかで勢いよく立ち上がったのである。タオルで前を隠したりなんかしない。ざぶざぶと湯をかき分け寛美のところまで近づいてくる。派手に湯を跳ね上げてなぜか正座して、
「オトコだな! テメーら近々会う気か」
「オトコって言うな、彼氏って言え」
「どっちでもえーわい! ジャズミュージシャン志望の、あのハンサムだろお!」
ここで開き直って「だったら悪いか!」とでも言い返してくれれば芹香としてもまだ張り合いがあったのだが、
「うん……」
なんて頬を染めて寛美がうつむいたので、腹立ちもひとしおだった。浮かれやがってとイラついた、それもある、ちょっと可愛いと思ってしまった、それもある。そして、
いいなー。
この気持ちを認められない自分に、芹香は腹を立てているのである。
「なー、寛美よう。いや、寛美さん」
「なんだその口調」
「
市橋 誉ってんだっけ、東京に行ってる彼氏って」
「そうだけど?」
「その市橋王子によー、友達紹介してって頼んでくんね? 私に」
「なんだって!?」
「なー、しおパン(
吉住 志桜里)にはこういうの頼めねーんだよー」正座したままにじり寄る。
「お前、市橋みたいなタイプが好みなのかよ」
「私は性格重視だ。清潔感があって真面目で、優しい男がいーんだ」
「ツーブロックでピアスしてて、いつもジャージで金のネックレスしてるようなのが好みだと思ってた」
「私をなんだと思ってやがんだ」と言って、一瞬芹香は視線を外す。「……ああいう男はなあ、もうやめたんだ。すぐ裏切るから」
どういう『裏切り』があったのか、訊かないだけの分別は寛美にもある。
「それに寛美の彼氏のダチなら、見た目がイケてんのも確定だろ?」
「誉の友達だからって見た目がいいとは限らんぞ」
「イケメンの友達はイケメン、これ真理な」
「そーか? それに性格だって」
「イケメンは性格がいいんだよ、周囲にチヤホヤされてるからな。逆にブサイクは性格が歪んでる! これも真理だ」
「絶対そんなことねえと思う」
いーから頼むよぉ、と潜水土下座しかねない芹香に仕方なく、「一応、訊くだけは訊くけど……」と言わざるを得ない寛美であった。
久々なんだからホントは、そういう話はしてらんねーのになあ。
~~~
今年の夏は欧州も相当なものだったがそれでも、
暑ッ!
が
三佐倉 千絵の正直な感想である。
四ヶ月ぶりの日本、そして寝子島。千絵を迎えたのは酷烈な季節だった。
炙られている。フライパンの上のごとし。ドイツでは日陰に入ればまだひと息つけたのに、日本の夏は蒸し蒸ししていて、屋外に安全地帯というものがない。アスファルトは歪み、蝉の声が聴覚を奪う。ゆくての光景なんて蜃気楼だ。昨年まではなんとも思わなかった距離なのに、駅からシーサイドタウンまでの道だけでポップコーンになってしまいそうな気がする。
ドイツでは日傘なんてまず見かけなかった。用意しなかったのは誤算だったかも。
誤算……ごさん。ごさん十五、ごし二十。ごご、ゴゴ……もう午(ひる)だったっけ……。
頭がバグったのか、わけのわからないメッセージが頭の中でシャトルループする。
ガラガラガラと引きずるスーツケース、その持ち手もトゥーホットだ。
なんだか眩暈がしてきた。歪んでいるのは道じゃなくて、自分の神経だったか。
まずい、一時帰国早々熱中症で倒れるかも──。
このとき前方から、
「千絵! ずいぶん早くね!?」
懐かしい声がした。
「なんだよ水くせー、連絡したら迎えくらい行くのに!」
駆け寄ってくる。懐かしい姿が。
暑い熱いアツい! 抱きしめないで、と思いがよぎったのは一瞬、
「また会えて嬉しいです」
千絵は、
芋煮 紅美の背に腕を回していた。暑さなんて吹き飛んだ。ただし一秒だけ。
「
あぢー!」
ふたり同時に声を発し、飛び退くように離れて爆笑する。
例によって長いガイドをここまでお読みいただきありがとうございます!
マスターの桂木京介です。
市橋 誉さん、吉住 志桜里さん、本作では名前だけの登場となってしまいましたが、ご参加をお待ちしております。ご参加の際は、このガイドにこだわらず自由にアクションをおかけください。
概要
本作は、
■寝子島へ帰る(あるいは帰ろうか迷う)キャラクター
現在は寝子島の外で暮らしている方、または仕事(ビジネスマンの出張、ミュージシャンのツアーなど)で一時的に島を離れている方です。
実際に帰島するほか、帰るかどうか迷う話や、今回は帰らないと決めるまでの話なども歓迎します。
■寝子島に帰ってきた人を迎えるキャラクター
寝子島に暮らす方が、帰省した友人や家族と再会する話です。
ガイドでは、あおいと千絵も一時的に島へ戻ってきています。ふたりと縁のある方は、その再会を描くこともできます。
を参加対象として限定したシナリオとさせてください。
Xキャラでの参加も可能です(そのキャラの設定がわかるリンクを張っていただければ幸いです)。
寝子島在住者が地元に帰るという内容は、本作では想定していません。
時期は1372年8月初頭とします。
桂木の世界軸では現在、神魂はかなり弱まっているので、星幽塔のような異世界、霊界や冥界から帰省があるような展開はできません。(そういったシナリオもいずれ用意します)
アクション例
・寝子島に帰省して、お世話になった恩師にあいさつ。待っていたのは、お見合いの釣書だった!?
・帰島することは誰にも知らせていない。完璧なサプライズのはずが、駅前に自分の名前入りの歓迎横断幕が。ウワー!
・都会で垢抜けた姿を見せつけるつもりだった。島に着いて十分、昔のあだ名で呼ばれ、畑仕事を手伝わされている。
・久々に帰ってくる友人と決闘する約束がある。小学生のときに決めたルールなので、武器は水鉄砲、敗者はアイスをおごる。
・今回は帰らない。そう決めた日に、島の友人から「お前の等身大パネルと同窓会してる」と写真が届いた。自分より楽しそうで腹が立つ。
・帰島した恋人を格好よく迎えるつもりが、仕事が長引いた。待ち合わせ場所へ着ぐるみのまま走るしかないというのかッ
NPCについて
制限はありません。ただし相手あってのことなので、必ずご希望通りの展開になるとはかぎりません。ご了承下さい。
特定のマスターさんが担当しているNPCであっても、アクションに記していただければ登場できるよう工夫します。
NPCとアクションを絡めたい場合、そのNPCとはどういう関係なのか(初対面、親しい友達、交際相手、就活のために友人宅に集まるも裏でめっちゃ悪口を言い合うフレネミーなど)を書いておいていただけると助かります。
参考シナリオがある場合はタイトルとページ数もお願いします(すいません2シナリオ以内で)
私はこのところ記憶力がとみに落ちてきてマジでサプリメントでも飲んだ方が良いレベルなので、自分が書いたシナリオでもタイトルとページ数を指定いただけないと内容を思い出せません。ご注意ください。
おことわり
本作は桂木京介独自の時間軸であり、他のマスターさんのシナリオ展開は前提に含めていません。ねこぴょん後の展開についても同様です。そのため、アクションの前提についてのご要望にはお応えできない場合があります。また、『今後成立予定』とされている出来事を既成事実として扱うこともできませんので、あらかじめご了承ください。
それでは次はリアクションで会いましょう。
桂木京介でした!