毎朝の、起きる時間には慣れたでしょうか?
行き帰りの通学路には慣れたでしょうか?
授業には、クラスには、日々の学校生活には慣れたでしょうか?
そろそろ自分のペースも定まってきたかな、と、皆さんの多くが感じはじめたこの頃、寝子島高校名物『新入生歓迎大祭、略して……新歓祭!』が開催されるとの報が、学校中に伝えられました。(なお、『略して……』以降も含めたすべてが公式名称となります)
新一年生は「へー、そうか」と思っただけかもしれませんが、二年生・三年生は「来たか……」と緊張の面持ちになったかもしれません。いずれこの『新入生歓迎大祭、略して……新歓祭!』の詳細が伝われば、一年生も少なからず、いえ、上級生以上に堅くなるかもしれませんね。
なぜって、この学校の新入生歓迎会は少し、特別だからです。
新入生歓迎会の主役は、その年度の新一年生です。
そんなの当たり前でしょう? と言うなかれ、普通の学校の『歓迎会』では、上級生が主役をもてなすものですが、こちら寝子島高校の『新入生歓迎大祭、略して……新歓祭!』は正反対、
もてなす側が一年生という伝統があるのです。
場所は講堂。四月下旬某日の午後一杯を使って、新一年生がステージに上がり、出し物を披露します。いわば隠し芸大会といったところでしょうか。二年・三年生は主としてこれを鑑賞する側です。
演目は自由。個人参加でも団体参加でも構いません。
歌うもよし寸劇を演じるもよし、漫才やコント、達人芸、部活の得意技でもウェルカム、一組につき十分前後という時間的制約はありますが、それ以外は特に気にせずためらわず、できることをバンバンやってほしいという主旨なのです。
決して参加は強制ではありません。希望者だけで行います。
入学したばかりで高校生活の浅い一年生、さしたるものはできないだろう、いやそもそも、舞台に上がる度胸がある者がどれだけいるというのか……そう思うのも自然ですが、なかなかどうして、これがあなどれません。毎年この新歓祭では怖いもの知らずの、あるいは、なけなしの勇気を振り絞った一年生たちがステージにて、あるときは笑いを、あるときは涙を、そしてしばしば、魂の震えるような瞬間を作り上げてきたといいます。
この新歓祭では伝統的に、そのときの生徒会長が審査役を務めることになっています。この審査役の反応から、新歓祭そのものの成功不成功を決めるのです。
審査役、すなわち生徒会長に『大きく感銘を与える』ことが成功の条件です。要するに「笑わせる」「泣かせる」「驚かせる」「感心させる」……などなど、なんらかの形で会長の心を、大きく動かすことが求められているのです。
どんな形でも構いません。一組でも条件が達成されたことが明らかになれば、その年の新入生は全員、晴れて寝子島高生として承認されたということになり、改めて上級生から歓迎の意が伝えられる――という流れになっております。
最終的には上級生有志からも出し物が披露される予定です。歓迎しつつ、上級生の威厳も見せつけるというわけですね。
これ、実は年によって難易度が大いに異なっておりまして、いわゆる『箸が転んでもおかしい』人が会長だった年や、『もらい泣き名人』が会長だった年はとっても簡単に条件達成となるのですが、感情の起伏が小さい人、表情のわかりづらい人が会長だった年はなかなか困難な事態になっていました。
そのことを念頭において、今年四月時点の生徒会長を見てみましょう。
その名は
海原 茂、十七歳。男性。
つねに冷静、いつだってクール、年齢からは考えられないほどの落ち着きと、巌のように安定した物腰で知られる人物です。
正直、何を考えているのかわからないときがある、と担任教師や友人など彼の周囲の人間は言います。笑っているところを見たことがない、という証言もあります。
こんな伝説もあります。あるとき授業中、火災報知器が誤動作してスプリンクラーからシャワーが降り注いだことがあったのですが、クラスじゅうが騒然とする中、彼だけは、びっしょりと濡れながらもまるで変わらぬ様子で、黙々とノートをとり続けていたというのです。
ちょっと、難しそうな相手ですね。
ここだけの話ですが昨年からずっと、「次の新歓は失敗するかもしれない」という不穏な噂が在校生の間でまことしやかに流れています。
これまでの生徒会長ならとりあえず、一年生の頑張りを認め、最終的には愛想笑いでもして結果だけ成功ということにしたでしょうが、超がつくほどの真面目人間である海原会長は、そのような融通を利かせてくれないと思われます。むしろ、「簡単に迎合しないことこそが上級生代表としての義務!」などと、変な責任感をもって挑む可能性が大いに高いのです。
なんだかんだ言ってこの新歓祭は、予定調和というわけではありませんが新入生の熱演によって、最後は成功、承認されてめでたしめでたし……となるのが通例でした。長く続いている伝統とはいえ、いまだ失敗に終わったことはないのです。
ところが今年ばかりは、行く手に濃い暗雲がたちこめております。
ひょっとすると本年は、史上初の
『新歓祭で新入生が承認されない』という結末になってしまうかもしれないのです……!
新入生の皆さん、参加方法は、ステージに上がることだけではありません。
舞台にかかるライティングやビデオカメラによる撮影、もてなしの軽食作成や給仕役など、世間の新歓イベントならただ傍観していればいいだけの一年生が、主体となって担当すべき仕事は多々あります。
また、聴衆として行く末を固唾を呑んで見守るのだって、あるいは、友達作りのきっかけと考えて交流に励むのだって立派な参加の方法です。これだって、この場でしか味わえないものなのですから。
ステージに挑みたい、けれどなにをやったらいいのかわからない……という人は以下の情報を参考にしてみてはいかがでしょうか。
有志を募って、『昼ドラチックな白雪姫』の寸劇を行おうという声が出ています。俳優や脚本で参加してみませんか? そもそもがドロドロした話なので、愛憎まみれぐっちゃぐちゃ演出にしてもいいでしょう。あるいは、昼ドラらしい安っぽさを全開で作ってもいいでしょう。配役は一役につき一人とは限りません、白雪姫のほうが七人いるという驚愕の展開だってアリです。
合唱のメンバー募集も行われています。合唱なんて定番かもしれませんが、やはり定番は強い。校歌、でなければ裏校歌を熱く歌い上げてみませんか? あるいは、驚くようなアレンジをしてみるのも面白い。オリジナル曲をつくってぶつけてみるのだって歓迎です。
チームダンスで見る者の心を奪うのもいいでしょう。それともお笑いで、明日の地平線を切り拓きますか? 形態模写や手品、早食い……などなど、秘めていたあなたの才能を表に出すいい機会になるかもしれません。
そして上級生の皆さん。
皆さんは一年生を見守る側として、優しく、そして厳しい目をもって彼らを迎えて下さい。
影ながら手助けするもよし、上級生として最後に出し物を披露し、年長の実力を見せるもよし。
いずれにせよ、手本となるべき存在であることをアピールしてみませんか。
試練のときがやってきます。
果たして、今年の新歓祭はどのようになるでしょうか。
新入生たちは、海原会長の心を動かすことができるでしょうか。
上級生たちは、彼らの気持ちに応えることができるでしょうか。
ステージに上がる人、これをサポートする人、応援する人、どんなかたちであれ、輝ける一日にしたいものですね。
さあ、今年はどんなドラマが待っているのでしょうか。
新入生歓迎大祭、略して……新歓祭に!
ゲームマスターの桂木京介です。よろしくお願い申し上げます。
ようやく学校生活に慣れてきたかな……? というこの時期、寝子島高校名物にして伝統たる『新入生歓迎大祭、略して……新歓祭!』が開催される運びとなりました。
内容については、シナリオガイドにある通りです。様々な方法での参加ができそうですね。
リアクションでは新歓祭についてのみ描写するものとし、これまでの過程についての回想、新歓祭終了後の人間模様については基本的に描写しません。
新歓祭そのものには『成功』『不成功』がありますが、シナリオそのものの成否についての定めはありません。
ですので楽しめれば成功、というように考えて頂ければ結構です。たとえ会長が無表情のままだったとしても、参加するあなた自身に得るものがあればそれで良いではないですか。
なので会長の反応はあまりプレッシャーに感じず、のびのびとやりたいことをやってくださいませ。
それでは、次はリアクションでお目にかかりましょう!
桂木京介でした。