――寝子暦1372年4月。
別々の街で新生活に向き合うことを選んだ恋人たちは、今日も小さな一歩を重ねていた。
バタバタと部屋に駆け込んだ
七夜 あおいは、電気をつけながら手早くNYAINEでかわいらしい謝罪のスタンプを送る。ものの1分もしないうちに震えたスマホが返信を知らせるけれど、既読をつけるのは鏡で髪が乱れてないか確認してからだ。
今日の夕飯はひとまず冷蔵庫に放り込み、息を整えてNyascordの準備を整える。そしてようやく、先のメッセージに『お待たせ』と再度返せば、日課となりつつある
八神 修との幸せな時間が始まった。
その日あったこと、今度の週末の過ごし方。修の飼っているペットの話から、あおいが気になっている地域猫の話まで。画面越しとはいえ、ほぼ毎日話しているのに話題が尽きることはない。
(……不思議だな)
少し前まで、予想もできなかった。
あのときの自分は、まだ『こたえ』を持っていなくて、友達のままでも、きっと……幸せだと、思ってた。
『あおい?』
「ううん。なんだかね、いいなって思えて」
恋を選ぶだけの、勇気も覚悟も足りなかった自分が、少し大人になれたこと。
それまで彼が、ずっと優しく見守ってくれたこと。
胸の奥で結んでいた気持ちが、静かにほどけていく瞬間。怖くて、何度も目をそらしかけたけど……それは、壊れるんじゃなくて、開くことだって気づけた。
『ふーん……あおいは、ビデオ通話で満足なんだ?』
「違うよ! そうじゃなくって」
『あはは、嘘だよ。ちょっと、からかいたくなるくらい、可愛い顔をしてたから』
「もー……っ!」
思わずクッションをたぐり寄せて、顔を半分隠してみる。
けど、もし修に同じようにされたら寂しいからか、あおいはほどほどのところで手を止めた。
『……で、さ。せっかくのGWだし、どこか行かない?』
「どこかって……どこまで行く気なの?」
確かに春休みが終わる頃、次にまとまって会えるのは、きっとGWになるねと笑い合っていたけれど。
それでもあおいは、『どこかに出かける』と言うほど大それたことは考えていなかった。
自分の住む福岡にも修を案内したい場所はたくさんあるし、彼の住む東京にはデートスポットがたくさんあるし。もし大旅行になるとしても、せいぜい2人の間をとって関西……とかが妥当だろう。
(でも本当は、修君のことだから……)
もっと素敵な所に行きたいんだろうなぁと思ってしまうのは、育ってきた環境が違うから。
かたや6人兄弟の長女として慎ましく生活をしていて、かたや本格料理が食べたいからと気分で飛行機に乗ってしまうようなお金持ち。
もちろん修はそれを鼻にかけることはないし、いつでもあおいのやりたいことを尊重してくれる。けれど……それにはどこか、遠慮が見られた。
『ああ。もし、あおいが良かったらなんだけど……』
だから今回も楽しみな反面、修の第一希望ではないのだろうなと続きの言葉を待っていたとき。意外なほど瞳を輝かせた彼に、あおいは見返すことしかできなかった。
『北海道と沖縄なら、どっちがいい?』
「あ、え? えっ?」
『俺としては、利尻島・礼文島とか、波照間島とか――』
「待って、修君?」
『やっぱり遠いかな。真ん中なら伊豆諸島とか、あ、屋久島なんてのも良いかもなあ』
「待ってってば!」
少年のような顔で語る修にストップを入れると、あおいは頭の中で日本地図を描きだした。
さすがに、北海道と沖縄の場所はわかる。伊豆諸島や屋久島なんかも、育ちは関東なので大体わかる。
「利尻島・礼文島とか波照間島って……え、北と南すぎない?」
『北海道と沖縄には違いないよ』
「そうだけど……にしたって、島ばっかり」
クッションを抱えて笑うあおいは、つい「島国の人だから?」なんて聞いてしまう。それを聞いた修は吹き出しながらも、すかさず「島『国』っていうなら、あおいとお揃いだね」と言い返し、再びあおいは大爆笑だ。
そんな破顔した彼女を見て、いつもと変わりない様子に安堵する修は、小さく浮かんでいた疑問を心の中で打ち消していた。
「修君?」
『いや……ちょっとね。本当は、あおいと居られるならどこだって良かったんだけど』
そう言いながらも、修はこの旅行を楽しみにしていることを包み隠さず伝えてくれる。
北海道ならまだ過ごしやすく、高山植物も花の見頃で楽しめること。沖縄なら異国情緒溢れる町並みで、地域のお祭りが賑わっていること。屋久島の苔むす森の香りは、きっと寝子島では味わえなかった感動があること。
『……まあ、さ。行こうと思ったら、これからいつだって行けるんだ。だから今回はあおいの希望で』
「どうして?」
言った後で、可愛くないと気づいた。
ありがとうって、ごめんねって甘えれば良かったのに、どうしてそれができないんだろう。
「本当は、海外とか行きたかったんじゃない?」
確かに日本でも、GWは十分楽しめる。でもテレビを賑わせるのは、『最大何連休とれました!』だとか、空港インタビューでの海外旅行の話題。まして修の日常からしたら、そちらが普通の感覚のはず。
(私は『自分のペース』で、恋をしていきたいだけなのに)
彼氏に気遣われてようやく成立する恋なんて、果たして自分のペースと呼べるだろうか。
ただでさえ、気持ちを認識し一歩踏み出すまでに時間がかかった。……これ以上、修に遠慮をさせることは避けたいし、自分だって普通の女子大生として頑張っていることを伝えたい。
(でも『頑張ってる』なんて言うの、何かを期待してるみたいで……やだな)
会えればどこでも嬉しいのは同じだ。特別な連休にしたいのだって、一緒だ。
『海外は……次の機会でいいよ。連休の前半は、お互いやらなきゃいけないことを頑張るんだろう?』
新しい環境で新入生となった今、勉強だけでなく生活に慣れるのもいっぱいで。
必然的に、海外へ行くには日程的に厳しいだろうと言うことは、あおいでも理解できる。
けど――修が非日常を楽しみたいことだけは伝わったし、そこだけは妥協させたくなかった。
「じゃあ、波照間島。行こうよ、沖縄! あ、でも去年の日焼け止めじゃ心許ないかなぁ?」
元気よく笑って、先のプレゼンで気になっていたことを質問する。
どこに泊まろうかとか、そもそもどうやって行くんだろうとか、予定を詰めたいところであおいのお腹が小さく鳴った。
『あはは、美味しいものも食べなきゃな』
また明日、船なんかを調べて連絡するよと通話を名残惜しむように切り、寝落ちるまでNYAINEでメッセージを交わす。……結局2人とも、明日なんて待ちきれずに、「まず何を持っていく?」なんて話しながら旅の準備を始めてしまい、それに笑い合った。
(修君、喜んでくれるかな……)
本当は今日もちょっぴりクタクタだったけど、彼の笑顔を見ると元気が湧いてきて、忙しいなんて言ってられなくなる。
恋人になって初めての旅行。素敵な旅行にするために、もっと毎日を頑張ろうと、あおいはふふりと笑ってスマートフォンを握りしめた。
毎日高校で会っていたときとは違う日々。遠く離れる直前に、やっと気づいた恋心。
でもね、君と旅するこの春は、きっと私なりの『恋の仕方』がわかる、そんな時間。
小さな恋が、やさしく愛へとほどけていく……そんな季節になる、予感がするんだ。
リクエストありがとうございます、浅野悠希です。
こちらは、八神 修さんのプライベートが満載なシナリオです。
このシナリオでは『時の流れ』が設定されています。 - プロフなど各種設定にはご注意ください -
■年月日 :寝子暦1372年5月2日(土)~3日(日)
※あくまでこのカレンダーは目安です。八神さんの思う世界線のカレンダーをご使用ください。
■気象予報:沖縄は梅雨入り中。この2日は晴天に恵まれますが、スコールには十分に気をつけてください。
概要 - 初夏の沖縄を満喫しましょう! というシナリオです。 -
※ このシナリオは、前後編の2部構成です ※本シナリオ(前編)では、5月2日~3日(仮)の2日間を中心に、沖縄での旅行風景を描きます。
後編はこのリアクションが完了後、「君と旅して。ふたりの夏は、最果ての星空にかさなる」として公開予定です。
■目的地のひとつ、『波照間島』
星空の聖地とも呼ばれる有人島。
シナリオでは、実際にはない宿泊施設も、実際には潰れてしまったあの施設も、存在することとします。
そのため、アクションは比較的自由に、のびのびと書いて頂いて大丈夫です。
■状況
前後編を通して、2人が沖縄旅行として予定していたのは『2泊3日』です。
しかし、2人の関係が「恋人」に変わったことで、あの頃とは少し違う気持ちが芽生えるGW。
笑いも、トラブルも、恋のドキドキも盛りだくさんなこの旅行が、無事につつがなく終わるでしょうか?
前編の結果を経て、旅の日程は変わるかもしれませんし、安全運行かもしれません。
さあ、全部ひっくるめて、「2人の思い出」にしていきましょう!
■できること
前編では、沖縄への移動から描くことができますが、現地入りから始めるのがオススメです。
なにせ、沖縄には島がたくさんありますからね。船上イチャコラのチャンスは、いつでもあります。たぶん!
旅行中の出来事としては、本島での観光や海辺のデート、もちろん宿泊も楽しみのひとつ。
星空観察や地域イベント(ハーリー、音楽祭など)など、デート内容は幅広く選べます。
> 旅のモデルケース
・1日目:本島でのんびり観光、夜に宿泊。
・2日目の朝:波照間島へ移動し、海辺ではしゃいで。
・夜は星空を眺める予定だったけれど……天気予報は? 疲労やすれ違いは……?
などなど、こんな流れをベースにしても、まったく違うプランでもOKです!
ガイドに縛られず自由にアクションを書いて頂ければと思います。
もちろん申請いただきました内容も、描写可能ですのでご安心くださいね。
NPCとXキャラ
今回登場とお伺いしてますのは、NPC:七夜 あおい この春から付き合い始めた、八神さんの彼女です。
恋人となった瞬間からの遠距離恋愛に、寂しい思いはありつつも毎日を頑張っています。
……ただ、どうやら八神さんに伝えてない「秘密」を抱えているようです。
PL情報:あおいはこのGWのために、新生活の合間を縫って「アルバイト」を頑張っていました。
日課の通話が遅くなる日や、疲れが見える日もしばしばあったとか……?
※ 独自ルール ※ - こちらは他MSへ対応を迫る行為はお控え下さい -
浅野が担当するシナリオでは、 様々な短縮表記が可能 です。
参照シナリオがある方、Xキャラと参加したい方、アイテムやイラストを参照してほしいなどありましたら、
『独自ルール』をご参考に短縮表記をされると、アクションの圧縮に繋がります!
※気になる方は、ぜひお気軽に利用してくださいね。
※今後は、基本的に参照シナリオを提示されない限りは、同じ世界線として扱いません。
寝子暦1372年の卒業式以前のシナリオは、問題なく『過去』として参照が可能なため、引き続き参照します。
それ以後は自主申告がないと、浅野側では別の世界線なのか同一世界線なのかを判別することができません。
そのため、 物語の隙間を埋めるような描写 を希望される際は『必ず』参照シナリオをご提示ください。
※過去参加して頂いた浅野のシナリオに関しても、記憶違いを避けるためにご協力頂けると助かります!
(そのため、1度お知らせ頂いた内容であっても、必要な場合は都度お知らせ願います)
※必須じゃないけど知っておいて欲しいなという事柄については、 少しであれば 確認させて頂きます。
※但し、こちらは全てに目を通すと確約をするものではなく、あくまで余力があればとなります。
それでは、よい1日をお過ごし下さいね!