稲積 柚春と
ウォルター・Bは、星ヶ丘の片隅の、とある洋館の前に立っていた。
一月半ば、時刻は十九時を過ぎ。夜の帳は下りている。待ち合わせ相手の姿はない。
柚春が不安そうにウォルターを見上げる
「遅いね、
ウィリアム博士」
「呼び出しておいて遅刻なのかなぁ」
ウォルターは腕時計を見て、幾度かぱたぱたとつま先を鳴らした。
――事の起こりは、ウォルターに手紙が来たことだった。
「ウィリアム博士は遠縁の叔父で、一族の中ではなんていうかなぁ……変人、って思われているねぇ」
「そんなに変わっているの?」
「SPRって知ってる? イギリスの有名な心霊現象研究協会、The Society for Psychical Research。それをもじったSociety for Ghost Research、通称SGRって会を立ち上げてねぇ……」
英語が多いうえに、心霊? ゴースト? と柚春は首を捻る。
「つまり?」
「つまり、幽霊大好き人間ってことだよぉ」
手紙の差出人であるウィリアム博士は、このたび日本のゴーストハウス、すなわち幽霊屋敷を買ったのだという。その場所が寝子島島内だったので、ウォルターに探索の助手を務めるように、という内容だ。
「断っても良かったんじゃない?」
「そうなんだけどねぇ。せっかく日本に来るって言ってるし、ゴーストハウスってどんなものかなって思うじゃない。幽霊がいたりポルターガイスト現象があったりするらしいよぉ?」
というやりとりが、数日前にあり。
博士との待ち合わせの今夜である。
「どうして君も来たのかなぁ?」
「僕だって興味あるもの。それにウォルターさん、久々に会う変人な博士と二人じゃ怖いでしょう?」
そういいつつも柚春は喉を鳴らした。この館、絶対何かいる。だって肌が泡立っている。
柚春は無意識に、ウォルターの上着の裾をしっかりと握りしめてしまう。
「泣いたって知らないからねぇ」
「ウォルターさんこそ」
なんて唇を尖らせて。
見上げた館の二階の窓をすーっと歩いていくような明かりを見つけた。
「ウォルターさん、あれ」
「博士? 待ちきれずに先に入ったのかなぁ」
久々に会う甥を待てずに? なんとなく違和感はあるが、変わった人だからそんなこともあるのかと、ウォルターは玄関の扉に手を掛けてみた。鍵は掛かっておらず、扉は不自然なほど滑らかに開く。
中は暗かった。辛うじて、天井近くの明かり取りの窓から差し込む月光の光で、玄関ホールの様子が見て取れる。お屋敷というにふさわしい、広い玄関ホールだ。左右から二階にあがる階段が弧を描いている。
「ウィリアム博士ー?」
ウォルターが中に入る。置いて行かれてはたまらないと柚春もそれに続く。
と、次の瞬間。
バタン!
柚春の背後で扉が閉まった。
「えっ?」
柚春はドアを開けようと古びたノブをガチャつかせる。開かない。
ウォルターもドアに体当たりする。それでもドアはびくともしない。
「参ったな。閉じ込められたみたいだねぇ」
「ウ、ウォルターさん……」
柚春は震えながら玄関ホールの二階部分を指差した。
白っぽいシンプルなドレスを着た髪の長い女性のシルエットが、ぼうっと光って佇んでいる。
「そこにいるのは誰だい?」
ウォルターが誰何した瞬間、白く光る女性の姿は、数多の白い蝶となって散った。
「
ファントムバタフライの館のゴースト……」
さすがのウォルターも声が震えてくる。
「とにかく出口を探そう。それからウィリアム博士も」
こんにちは。
ゲームマスターを務めさせていただきます笈地 行(おいち あん)です。
稲積 柚春さま、プライベートシリオの申請ありとうございます。
ウォルター先生と一緒にゴーストハウス探索です。
ちょっとだけ怖いので、くっついたりなども自然にできるかと。
(めちゃくちゃ怖い本格ホラーには致しませんのでご安心ください)
先に入った(?)ウィリアム博士を探し、館から脱出しましょう。
ウォルター先生とどこをどんなふうに探索するか、
怖いことが起こったらどんな反応をするかなど、自由にアクションに書いてください。
ファントムバタフライの館について
【館の構造】
西洋風の古い洋館。住む人がいなくなって何十年も経っているようです。
ウィリアム博士からの手紙に簡単な館の内部の図が添えられていました。
1階:玄関ホールがある。左右から弧を描く階段で二階へ行ける。
ホール正面のドアの先は、食堂とキッチン。
2階:階段を上ると、二階の各部屋に続く廊下がある。
正面のドア:コレクションルーム。蝶の標本がぎっしり。
左側の部屋:書斎
右側の部屋:ベッドルーム
今わかるのはこれだけです。隠し部屋などがあるかもしれません。
【館で起こる異変】
館に入った時刻は19時すぎ。館の中は電気が通じておらず暗いです。まずは灯りを探しましょう。
●ポルターガイスト現象……食堂・キッチン。
食器やフォーク・ナイフなどが勝手に動いて襲い掛かってきます。
●蝶の幽霊……蝶の幽霊はどこにでも。
●女性の幽霊……主に二階にいるようです。襲い掛かってくる気配はありません。
壊れたレコードみたいに繰り返し同じ動きをしていることもあります。
何か知らせたいことがあるのかも?
そのほか、冷気を感じたり、足音のような音や家鳴りがすることもあります。
ウィリアム博士……ウォルターの遠縁の叔父。
ウォルター談:20年以上前に会ったときもう髭が白かったので、けっこう高齢のはず。
それではごゆるりとお楽しみくださいませ。