古紙のくすんだ象牙色と、ほころびた革表紙の暗褐色。珈琲は濃い琥珀色で、淡い電球色がカップに宿る。
ここは寝子島旧市街、参道商店街からいくらかはなれた一角だ。古書喫茶を名乗るのは店内が、まさしく古本にうめつくされているから。屋号は『思ひ出』、訪れればたちまちこの名に納得することだろう。はじめての来店であってもなぜか懐かしい、幼少期の記憶のような色をした店なのだから。
このとき客はただひとりだった。カウンター席、深く腰かけている
倉前 七瀬だ。
七瀬は耽溺していた。水深何千里もすっぽりと、活字の海溝に沈みこんでいた。黙って古書のページをめくっては、かぐわしき物語の世界を味わっている。
青磁のティーカップとソーサーをそろえ、『思ひ出』店主
柏村 文也は棚におさめた。おなじ組み合わせで半ダースほどくりかえし、一歩下がって棚をながめる。じつは文也がこの動作をするのは本日四度目、ああでもないこうでもないと、位置を入れ替えてはためつすがめつしているのだった。
何のことはない。いささか退屈しているのである。
邪魔だてするのもと思って、文也は七瀬に声をかけずにいたが、ふと七瀬の前に積まれている数冊に気づいてうずうずしてしまう。
だってそうじゃないか――。
ツルゲーネフの『初恋』に。
夏目漱石『こころ』。
島崎藤村の『若菜集』といえば、国語教科書でもおなじみの「初恋」が収録された詩集だ。
しかも現在、彼の熟読している作品がバルザック『谷間のゆり』ときては、もう口をつぐんではいられない。
沈黙は金という俚諺(りげん)もあるが、金のかわりが銀でも銅でも、いっそ鉄だろうとかまわなかった。この状況を見送ることに比べればずっといい。
できるだけ何気なくさりげなく、けれども隠しきれぬ好奇心とともに、文也は七瀬に問いかけたのである。
「もしかして、好きな人でもいるの?」
「えっ……」
何の話? とでも言うかのように、七瀬は本から顔を上げた。あまりに屈託のないそのまなざしに、文也はついつい頬を染め、いたずらが露呈した少年みたいな口調でかく返すのだ。
「いやほら、恋愛ジャンルの本ばかりじゃない? と思って。今日のチョイス」
偶然ですよと言って七瀬は目元をゆるめた。
「そげんことはなかとです。でも……」
なら逆に訊いてみようかな、そんな気まぐれを七瀬は起こす。
「文也さんこそどうなんです? いらっしゃると? 好きな人」
これよりはじまるふたりの恋語り、さてどのように転がりゆくやら。
リクエストありがとうございました! 桂木京介です。
お待たせしました。柏村 文也様、倉前 七瀬様へのプライベートシナリオをお届けします!!
シナリオ概要
烈火灼熱夏の午後、でも外が嘘のように涼しい『思ひ出』店内で、他愛もないおしゃべりに花を咲かせます。
きっかけは「好きな人でもいるの?」という文也様の問いかけであり、「文也さんこそどうなんです?」という七瀬様の問い返しなのですが、まっすぐに恋愛談義に向かう必要はありません。喫茶店での会話らしく脱線や遠回り、突然の関係ない話題や行ったり来たりなどを経つつ、なんだかんだと楽しい時間をわけあうようなシナリオにしたいと思っています。
ふれてもらいたい過去のシナリオや、お互いのお互いに関する感情、共通している情報、逆に、共通していない(このシナリオではじめて相手に明かす)情報などありましたら、話の種としてご提供いただきたく思います。
さてどのように転がりゆくやら、と結んだのは現在の僕の気持ちです。どんなアクションをいただけるのでしょうか……わくわくしております。リアクションを書くのが今から楽しみですよ。
それでは、次はリアクションで会いましょう! 桂木京介でした。