たんなる筆記用具というにはあまりに立派で、けれど装飾品でもないのだから、ただ部屋に飾っておくのはもったいない。そのためいつもペンケースに忍ばせて、学校でも部屋でも、ここぞというときに使うようにしている。
万年筆の話だ。
鴻上 彰尋がバレンタインデーのおりに贈られたものである。
七夜 あおいから。
バースデープレゼントとして。
ボディは透明、しっかり握れる肉厚なフォルムだ。書き味は本格派で、キュッととめたりはらったりするたび、ボールペンには出せない『溜め』のようなものが筆跡にのこるのが気持ちよかった。
大きな文具店ならどこでも売っているような万年筆ではあった。でもこのペンは正真正銘、世界にただ一本のオリジナルなのだ。
インクの後ろの空間に、小さなうさぎのマスコットが入っているのだ。
うさぎは茶色で垂れ耳。透き通るようなブルーの瞳で、大きなハートを抱いている。デコ万年筆という商品で、こうやって独自の飾りつけができるのだ。あまり派手派手しくして実用性をそこなうことなく、それでも印象的な工夫をこらしているところがあおいらしいと思う。
先日、彰尋は担任の桐島から調査票を渡された。
「これが絶対などと思わなくていい。迷いの多い時期だ。変更したくなることもあるかもしれん。だから現時点での考えを書いてくれ。今後の進路指導の指標につかう」
期限はゴールデンウィークあけということだ。
数ヶ月まえに書いたのは予行的というかあくまで大まかな希望だった。今度のものはもっと詳細にわたるもので、たとえば大学進学希望だとしても、第三志望校と学部まで明記するよう求められていた。
もちろんこの調査票も、彰尋はこの万年筆でしたためるつもりだ。
でも――。
そろそろインクが切れかかっている。試し書きするといささか文字がかすれていた。最初からセットされているのは『テスト用インク』ということで、量もあまり入っていないようだ。
万年筆とは読んで字のごとく、ペン先やリフィルを交換すればそれこそ一生の伴侶にもなる。傷のつきにくい硬質なボディが用意されているのもこのためだ。
長くつかうにはどんな色のインクがいいのかな。
テスト用の黒も悪くはなかったが、どうせならもう少し、スペシャルな感じもほしいと思うのだ。販売会社のサイトを見てみると、黒だけでも四種類、他のカラーバリエーションも豊富ということがわかった。
いくらか頭を悩ませてみたい。
――悩ませる、といえば。
つくづくと調査票を眺める。
書く内容こそが問題だ。
役者の道に進みたい。その決意にぶれはない。
ただ、到達点をどこに設定するべきかという迷いはあった。
能楽師の父を追う夢はあきらめた。いや、あきらめたつもりだ。
でも完全にふっきれたのだろうか。父とおなじ舞台に立つことに未練はないのだろうか。
演じるという意味では、能楽師と舞台俳優はおなじ範疇に入るかもしれない。しかし歩む道はまったく異なるだろう。
あと一度、あと一度だけ観に行こう。
彰尋は決めていた。父親にたいする恐れの気持ちはまだ残っている。だから兄に同行を願ったうえで、関係者ではなくただの観客として父の能舞台を観に行きたい。そして自分の心に決着をつけたい。
そのときまでには、インクの色も決めておこう。
彰尋は万年筆にキャップをおろした。
ハートを抱いたうさぎが、ほんの少しだけゆれた。
リクエストありがとうございました! 桂木京介です。
お待たせしました……本当に遅くなってしまったことをお詫びします。
鴻上彰尋様へのプライベートシナリオをお届けします!
シナリオ概要
いただいたリクエスト内容に沿った展開にしたいと思います。
1.万年筆のインク色について悩む
2.父親の舞台を観た後、帰路
3..(アクション文字数に余裕があれば)その夜に見た夢
の二場面ないし三場面構成を予定しています。
3は必須ではありません。余裕がある場合のみでお願いします。三幕構成の場合は1と2については文字数を削らざるをえないのでご了承ください。(個人的には3も書いてみたい気持ちもあるのですが……、肝心の部分が薄くなるのも困るので悩ましいですね)
せっかくのプライベートシナリオですのでできるだけ自由に、気のおもむくままアクションをかけていただければと思います!
それでは、次はリアクションで会いましょう!
桂木京介でした。