「おめでっとうございますーーー!!」
旧市街の参道商店街にて、一際大きな声が響き渡った。
「あ、なんだ?」
開催されたくじ引きに、人が集まっている。その中心――くじを引いていた
酒浸 朱蘭は、商店街の人が慣らす大きな鐘の音を聞いて、眼を丸くした。
目の前には回転式のくじ引き箱から、金色の珠がひとつ転がり出ている。
「お、これもしかして当たりってヤツか!?」
「はいっ! ペア温泉旅行日帰り旅行ご招待ー!」
「マジかっ?
……機会があったら一緒に行きたいって思ってたトモダチがいたんだ、我ながらついてるなー!」
ろっこん効果による合法的な酔いが巡りながらも、そんな朱蘭の瞳が星のように輝いた。
――以前、海に行った時には全力で遊んだ。そのとき一緒だった友達と徹底的に遊び尽くした。
そして、その帰り際に思案していたことを朱蘭は嬉々として思い出す。
海の次は、これはもう温泉だろう、と。
日帰りである上に、せっかく当たった女の子と二人旅行ならば、咎める人もいないはずだ。
「よっしゃぁ! これでまた怜と遊べるぜ!!」
* * *
それから、数時間後。
外出していた
滝原 レオンの携帯に、一通の通知が届いた。
内容に目を通す前に、送って来た相手の名前を確認する。
『酒浸朱蘭』――ならば、これは『滝原レオン』宛てではなく『滝川怜』宛てだ。
「……」
その思考に、声にならないため息が洩れるようになったのはいつからだろう。
レオンの密かな趣向の一端として、完全な女装姿で街を歩くようになってから大分経つ。
朱蘭とは、その女性としての姿で出会ったのだ。
彼女のろっこんにより、ジュースで酔いが回って、互いに心から意気投合した。
それから、一緒に海にも行った……自分が女装をした男だと言えないまま。
朱蘭と『怜』として遊ぶ時間は、あまりにも楽しいものだった。だが、そのせいもあるのだろう。レオンは、言う機会を逃し続けた真実を言えないまま、楽しさの中に常に罪悪感を乗せて時間を重ねた。
今もこうして、朱蘭は怜に宛てて、レオンの真実を知らないままに連絡を取ってくる。
それは、いつも楽しい内容であり、そして自責の念を重ね続けるものでもある。
レオンは、改めて小さく息をつくと、メッセージを開く。
文面からも分かる程に嬉々とした様子で飛び込んで来たものは――『日帰り温泉のお誘い』だった。
「――!」
思わず息を呑む。海の水着で身体のラインを隠していた時とは違う。行けばこちらが男だということは、言い逃れのしようがない程に明らかになるだろう。その状態で、何知らぬ顔で温泉に一緒に行くという選択肢は存在しないのだ。
今回は――誤魔化して、朱蘭に行けないと断ることは簡単だった。だが、
(いつまで、こんな感情繰り返してるんだよ……!)
出会ってから一年が経った――いつまでも、親しくしてくれている存在を騙し続けて。自責の念に駆られ続けながら、それでも隠し続ける人間関係とは何なのか。
もう、レオンは朱蘭にも、己の心にも隠し通すことは無理だと、判断した。
携帯の通知に返信をする。怜の名前で。
『その前に、どうしても伝えなきゃいけない事があるから、明日の放課後、寝子高の校舎裏で会える?』
返事は即座に返ってきた。不思議そうで、しかし何も疑うことなく向かう旨が書いてある文面。
――まだ、引き返せると……レオンの中で、悪魔が囁く。
怜の姿で学校には来たことがある。誤魔化し続けるならば、怜として朱蘭に会えばいい。何でもないと言って、温泉のお誘いは断ればいい。
それでも、迷いながらも……やはり思うのだ。
「――もう、これ以上……隠すのはよくないよな……」
怜ではなく、レオンが呟く。
明日までの、カウントダウンが始まった。
こんにちは。冬眠と申します。
この度は、酒浸 朱蘭様と滝原 レオン様よりご依頼をいただきました、プライベートシナリオを担当させていただくこととなりました。どうか何卒宜しくお願い致します。
状況につきましては、シナリオガイド本文の通りとなりますが、お二人様の行動に関しましては特にシナリオ上の制限はございません。
ご自由にアクションを掛けていただけましたら幸いでございます。
『らっかみタイムの一年という時間』における非常に大切なシーンをお預かりすることとなりまして、責任をひしと感じながらも、全力を尽くさせていただきます。
それでは、どうか何卒宜しくお願い致します。