「そんなに私と結婚したくないかい?」
寝子島内にあるチャペルで白いタキシードを着た男性、真鍋慶介が祭壇に背を向けて美しいウェディングドレスを身に纏った女性、ミドリ・ヒラに尋ねた。
神の前で愛を誓い合う筈の男女なのだが、女性は男性に銃口を向けていた。
慶介とミドリは婚約関係にあったがそれは彼等の親同士が決めたこと。所謂政略結婚をされられそうになっている状態だった。慶介はミドリとの結婚を反対もせずに了承したのだが、ミドリは断固として拒否し続けてきた。彼女の言い分は全て無視され続けていて、痺れを切らしたミドリは「強硬手段に出るしかない」と銃を隠して数日前に来日したのだった。
(慶介も「結婚したくない」と言えば結婚しないで済むかもしれない)
「撃たれたくないなら婚約を破棄しなさい」
「わお。強烈だねぇ」
「……撃たれたいのね?」
かちりと安全装置が外される音がチャペルに鳴り響く。本来なら幸せに満ちた鐘の音がする場所には相応しくない音だった。
アメリカ軍人のミドリは射撃の名手で、少し離れた所にいる慶介の心臓を撃ち抜くのは容易い。
「君に殺されるのも悪くないが」
両手を上げながら、提案があるんだと続けた慶介。
「鬼ごっこしないか?」
一瞬の沈黙。
「遂にイカれたわ」
ミドリは左手を額に当てて、呆れた表情で慶介を見た。だが慶介は暴言を気にもせずにバージンロードを歩いてミドリの元へ近づいて来る。
「ルールは簡単。君は今から数時間この寝子島を「鬼」から逃げるだけ。捕まったら即終了!婚姻届にサインしてもらうよ」
ミドリの目の前で止まった慶介は、自分に真っすぐ向けられていた銃口を心臓から頭に変える。もし今ミドリが、引き金を引けば弾丸が慶介の頭を撃ち抜く。
「でも、逃げられたら好きな所へ行くと良いさ」
「……それを信じられる根拠は?」
ミドリは慶介に疑い深い目で見た。
(この話に乗って、本当に婚約を破棄してもらえる?)
「無いね。私を信じてもらうしかないさ。―――それとも今すぐ結婚する?」
それでも良いよ、とにっこりと笑みを浮かべた慶介にミドリが中指を立てた。
「くたばれ。糞野郎」
ミドリは、銃をゆっくり下ろす。
「はは!相変わらず口が悪いなぁ」
鬼から逃げるだけ、という慶介の提案は簡単なものではないだろう。だがもし彼と結婚することになれば、軍を辞めて日本にいる慶介の元での生活を余儀なくされる。
アメリカ軍で発展途上国支援を指揮しているミドリは仕事に誇りを持って取り組んでいた。
難民や孤児を守ることを自分の使命と感じていた所に、この結婚話が突然出たのだ。
(私は子供達を明るい未来へ導くって決めたの)
「どうする?」
「やるわ」
「わかってると思うけど鬼はただ追いかけてくるだけじゃないからね?
―――君を捕まえようとしてうっかり殺しちゃうかも」
慶介は仮にも婚約者であるミドリに物騒な事を告げてくる。
(それならこっちも本気でやるだけよ)
「上等。殺される前に殺すけど良いわよね?」
出来るならどうぞと言った慶介に盛大な舌打ちしてミドリは、ドレス姿のままで勢いよくチャペルを飛び出した。
♦♦♦
同刻、寝子島内ホテルの一室。
「この家から離れてどうするつもりなんだ?」
「ゴッドファザーがいるシチリアに行く」
一組の親子が口論をしていた。
喧嘩の原因は「家を出て自立する」という親子らしい会話なのだがこの家の家業は“殺し”だ。
息子である真琴の「家を出る」というのは“殺し屋家業をやめる”ということを指しているので父親である要は中々、首を縦に振らない。
「ゴッドファザーだって殺しのプロだぞ?」
なんか映画みたいだな、と要はけらけら笑ったが真琴は完全に無視する。
「リタイヤしてるだろうが」
ゴッドファザーである真琴の曾祖父も元殺し屋だが現在はシチリア島に住み、穏やかに老後を暮らしている。真琴はそこに行きたいと考えていた。
「どうしても嫌なのか?―――お前には家を継いでもらいたいんだけど」
「もう人は殺さない」
「普通はそうだ。だが“家業”だ。諦めろ」
「……っ!ふざけんな!知るかよ!クソ親父!」
真琴は近くにあった花瓶を要に向かって投げつけたが、当然の様に避けられて怒りが倍増する。落ち着こうと深呼吸してから、要と向き合うようにソファに腰を掛けた。
「なぁ、お前みたいな親を世間では「毒親」って呼ぶらしいぞ?」
「へぇ。そうなのか?それは初耳だ。覚えておくよ」
盛大な嫌味も要には通用しなかった。
「まじで死ね」
「やれやれ。反抗期か?」
(だめだ。こいつとは会話が成立しない)
苛々が頂点に達して、要を殺してシチリアに逃げてしまうかと考えた真琴だったがそれは得策ではないとすぐに考え直す。
「……。なぁどうすれば良い?どうすれば“この家”から解放してくれるんだよ?」
真琴の真剣な懇願に要は「わかった」と言って長い足を億劫そうに組み直した。
「許してくれるってことか?」
頑固な要が簡単に許してくれる筈がないと考えていた真琴の顔がぱっと明るくなる。
だが、やはり要は一筋縄ではいかない男だった。
「仕事を成功させれば」
「……これで最後だろうな?」
要は白々しい顔をして、スマホを取り出して画面を真琴に見せた。
「この人は?」
そこには、一人の女性が映っている。
「アメリカ軍人大尉のミドリ・ヒラ」
要が見せたのは、チャペルで慶介と口論していたミドリの画像だった。
スマホで撮られたであろう写真のミドリは先程とは違い、軍服を着て楽しそうに笑っている。
「軍人?」
「ミドリを俺達から守ることが出来たらお前の好きにして良い」
要は、持っていたスマホをぽいっとソファに投げてしまった。
「はぁ?守るって……。俺が?」
「そう。俺達が全力で殺しに行くから。ま、お前は彼女のボディーガードって所かな」
(殺し屋が殺し屋から女を守るって意味不明過ぎる)
なんと慶介は、殺し屋である要に鬼ごっこの鬼役を依頼していたのだ。要から仕事の詳細を伝えられた真琴は思わず「頭おかしいんじゃねぇの」と呟いた。
「愛の形は人それぞれなんだよ」
「それ愛じゃねぇだろ」
すぐに真琴は要を否定して立ち上がった。
乗り気ではなかったが、この頓珍漢な仕事を成功させれば真琴は自由の身である。
(絶対に家から出て行ってやる)
ミドリを守るために、真琴はホテルの部屋を出て行った。
こんにちは、星野千景です。
今回のシナリオは、内容は少々ヘビーですが
ぶっとんだ楽しい物語にしたいと思っています★
ミドリも真琴も暴言を散々吐いておりますが
慶介や要に言っていることですので
あまり気になさらずにお願いします、、、!
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軍人女性と殺し屋の男の子の協力を是非お願い致します!
ミドリはまず、寝子高へ向かって女子生徒に着替えを
貸してもらおうと考えているみたいです。
そして、真琴はミドリが持っているスマホの位置を調べて合流します。
皆さんは、偶然ミドリや真琴と出くわしたり、
ねこったーに流れているSOSを見て駆けつけたり、
さまざまなきっかけで彼らと関わることになるでしょう。
ぜひ協力してあげてください。
また殺し屋たちは、ミドリを応援する人はもちろん、
ミドリや真琴とちょっと話したりしてるだけでも、
ミドリといっしょに標的として皆さんを狙うので、気を付けて。
二人とも、土地勘が無いので逃げ回るのに適した道や隠れる事が出来る場所を
知っている方も是非ご協力をお願いします!