夢から覚めれば、そこは夢の中だった。
「ん~……?」
気が付けばテーブルに伏して眠っていた
曖浜 瑠樹は、その違和感にゆっくりと身体を起こした。
薄暗い。肘が当たらない範囲の所に置かれているランプが、ふんわりと辺りを暖色に照らしている。
しかし、おかしい。
そもそも、自分はきちんとお布団に入って眠りについたというのに。
「こ、ここどこかなぁ?」
一気に目を覚ました瑠樹が、辺りを見渡す。
見れば、同じようなランプが点々と、瑠樹が座っているテーブルや床にそっと置かれて、暗くないようあちこちを橙色の光で染め上げていた。
浮かび上がるのは、無数の本棚とそこに詰め込まれるように並ぶ本の群れ──
「本棚……寝子島の図書館かなぁ……?」
瑠樹はここは図書館だと認識してみたが、少なくとも今、真夜中に迷い込んだ覚えはまるで無い。
不安から、いつも一緒にいるぬいぐるみの
ラピちゃんを探してみたが全く見当たらない。
湧き上がる一層の心許なさに、瑠樹が改めて辺りを見渡した瞬間。
『おう』
「えぇ?」
足下から場違いに軽い声が聞こえる。
不思議そうに瑠樹がそちらを見れば、大きなテーブルの端から、何体かのぬいぐるみ達が顔を出し、瑠樹に向かって手を振っているところだった。
「ぬいぐるみのお泊まり会? ここで?」
瑠樹が、高さ的にこちらを見上げるのが大変そうだと察し、ぬいぐるみ達をテーブルに上げてやる。
その優しさを受けて、ぬいぐるみ達は嬉しそうに状況を話し始めた。
ぬいぐるみの図書館お泊まり会は、当初海外の図書館が子供に本への関心を持ってもらう為に始めた催しである。
近所の子供達は、大切にしているぬいぐるみを『お泊まり』として、夕方に図書館に預ける。
そして、司書は閉館後の図書館で、集まったぬいぐるみ達が、あたかも自分で動いて本を読んだり、本棚から本を引っ張り出したりするなど、館内で自由に遊んでいる姿をSNSで家族や持ち主に伝えるのである。
そして司書も帰り、夜が明けて。
翌日に迎えに来る子供達に『これは君のぬいぐるみが、君のために選んでくれた本だよ』と、司書が事前に選んでおいた本を、ぬいぐるみからのプレゼントとして子供達に貸し渡すのだ。
これならば、普段読書に殆ど興味がなくとも『大切なぬいぐるみが選んでくれた本なら』と、ぬいぐるみ達が楽しんで来た思い出と共に、子供がその本を読む機会になる──
「海外の発案が日本にも伝わるってすごいよな。いい話だろ?
ま、本を選ぶのは司書さんなんだけどよ。本当なら今でもおれら動けるわけがないし」
少しおっさん顔のテディベアが、当人達ですら不思議そうにそう言えば、
「そう、最近のお泊まり会では、私たち動けるようになったの! ただ朝には、取り置くつもりだった本も、全部お片付けられてしまうけれど……それでも、普通の夜と違うみたい。ふしぎ!」
可愛いダンサー服を着た、おしゃまなウサギが話を繋げた。
「神魂……かなぁ。今は普通の、寝子島の図書館と違うのかも知れないねぇ。
でも、いいなぁ……ラピちゃんも連れてこられれば良かったよぉ」
ぬいぐるみ達が動く要因に心当たりを付けながら、瑠樹が少し残念そうに呟いた。
「でも、今日はいつもより皆が多いのだ。
『オネーサン』一人じゃきっと大変だと思うのだ。
だから、一緒に本を取ったり、見たり、読んだりしてほしいのだ」
今日はいつもより、ぬいぐるみ達のお泊まり人数が多いのだと、最後の燕尾服のネコが口にした。
「『オネーサン』ってぇ?」
瑠樹が不思議そうに首を傾げると、三体の人形達は一斉に話し始めた。
「高いところから本を取ってくれるんだぜ!」
「お話できないけれども、何でも私たちの話を聞いてくれるの!」
「美味しいお菓子と紅茶を振る舞ってくれるのだ!」
そしてなにより、と。ぬいぐるみ達が息を揃える。
「オネーサンに見せた本は、明日司書さんが必ず選んでくれるから、お友だちに確実に渡せる!
『今日はお泊まりしているぬいぐるみのお友だちが多いから、オネーサンの代わりに手伝って!』」
瑠樹がその勢いにたどたどしていると、ふいに少し離れた所から、声無く笑う気配がした。
見ると、一人の女性が、その足下に隠れるように覗き見てくるぬいぐるみを連れ立ってこちらを見ていた。
「あ、オネーサンだ!」
『オネーサン』と。ぬいぐるみ達にそう呼ばれた女性は、ほんの少し困ったように微笑みながらこちらを見て。
そして、静かにお願いするように頭を下げた。
こんにちは、冬眠と申します。
この度は、シナリオガイドにて曖浜 瑠樹様にご登場いただきました。誠に有難うございます。
もしご縁をいただけました際には、是非ご自由にアクションを掛けていただければ幸いでございます。
当シナリオは、展開によってはシリーズ化する可能性もございますが、今回は第一話にあたることもあり、ご自由に楽しんでいただけましたらと思われます。
それでは、以下より状況の説明を行わせていただきます。
状況
数ヶ月に一度、子供達と図書館をもっと身近に感じてほしいと、寝子島図書館(マップK-6)にて『ぬいぐるみの図書館お泊まり会』が催されています。
本来ならば、夕方にぬいぐるみ達が集まり、図書館閉館後の光景として、ぬいぐるみ達が自分で本を読んだりしている光景をSNSなどで伝えて、翌日にあらかじめ選んでおいた本をぬいぐるみが選んだものとして、子供達に貸し出すイベントでした。
しかしお泊まり会が開始してしばらく、いつしか本当に司書がいなくなる真夜中の時間帯だけ神魂の影響で時空にずれが起こり、眠っているはずのぬいぐるみが『オネーサン』と呼ばれる存在と共に、自由に動き回っています。
今回ご参加のPC様は、ふと夜に眠って目が覚めたら『ぬいぐるみ達が動く、真夜中の寝子島図書館』にて目が覚めたところからスタートとなります。
何ができるのか?
真夜中の図書館内であれば、ご自由に行動していただけます。
その他
以下、全てPC様の前提情報としてお取り扱いできます。
○神魂の影響時間
・今夜、一夜限りのみ。
夜明けと共に、突然眠くなり元の世界へ戻されます。
・同時に時空のずれが直り、寝子島図書館では全てが元の位置、元の場所へと戻ります。
○夜中の図書館らしき場所
・窓の外は全て真っ暗ですが、室内はあちこちに電気のようなランプが灯っている為、本を探す場合などの明るさには困りません。
・出入り口の先も暗く、時空が断絶されているため扉も開きません。
○オネーサン
・二十代前半、白のブラウスに淡い色調の服を着た女性です。
・ぬいぐるみ達から大きな信頼を集めています。正体不明ですが無害です。
・言葉を一切話すことはできませんが、ぬいぐるみ達の愚痴を聞いたり、本から離れた場所で、ぬいぐるみでも汚れずに味が堪能できる美味しい不思議なクッキーと紅茶を振る舞っています。一緒にお茶をすることも可能です。
・ぬいぐるみが選んだ本を彼女に見せると、翌日の司書が必ずその本をぬいぐるみの元へ置いてくれると評判のようです。
○ぬいぐるみ達
・大きいものから小さなものまで。様々な種類のぬいぐるみが、フリーダムに動いています。
・今回のお泊まり会は十五体近くと大規模になった為、本選びや読み聞かせや運搬、日常の愚痴のはけぐちなどを、目に見えたPC様に手伝ってほしいと考えています。
・ぬいぐるみ達は、皆目標として『お友だち』である自分の持ち主に、選んだ本を読んでほしいと思っています。
※ぬいぐるみの種類や性格、その持ち主。取り巻く環境や、どんな本を探しているのか等、ご自由に考案して頂いて構いません。
その旨をアクションに記載して頂ければ、反映の程を行わせていただきます。
以下は、今日のお泊まり会に参加している、冒頭に出てきたぬいぐるみの一部となります。もし宜しければ、ご自由にアクションを掛けてやっていただければ幸いです。
○
名前:てでぃ
外見:二足歩行のテディベア
大きさ:30cm前後
性格:庶民的な常識人
持ち主:旧市街に住む小学生の男の子
欲しい本:勉強に使える『クマにも分かる算数の本』
○
名前:キア
外見:二足歩行のウサギ
大きさ:耳を入れて、20㎝前後
性格:明るい、前向き、少し賑やか過ぎる
持ち主:星ヶ丘高層マンションに一人暮らしの20代女性
欲しい本:『彼氏を作る手順方法』が細かく載っている本
○
名前:ヌイ・グルタミンさん
外見:二足歩行のネコ
大きさ:シークレットブーツを履いて、35cm前後
性格:少し背伸びした気遣い上手。ちゃっかり。~のだ、口癖
持ち主:桜花寮に住む寝子高の女子
欲しい本:『効率の良い時間の使い方』が載ってる本
○注意事項
・眠ってから無意識に移動してしまうことから、服以外のアイテム・持ち物等の持ち込み類は一切行えない状態となります。あらかじめご了承ください。
・今回のシナリオにおきましては『自分のぬいぐるみが、今日お泊まり会に参加している』というアクションも歓迎です。
その際には、上記同様にアクションにて、参加しているPC様所持のぬいぐるみについて(外見、性格、口調、探している本など。過去のリアクション参照の場合は、該当リアクションページURL)等のご記入をお願い致します。
自分の持ち主に読んでほしいと、おすすめの本を頑張って探すぬいぐるみ達と一晩過ごしてみる。
そんな一夜はいかがでしょうか。
それでは、どうか宜しくお願い致します。