――ゴリラと戦う者は、その過程で自らもゴリラになることのないように気をつけなくてはならない。密林を覗く時、密林もまた此方を覗いているのだ。
寝子島は、神奈川県湘南地方の木天蓼市に浮かぶ小さな島だ。本土まで約1キロのこの島は、海や山などの自然に恵まれ、リゾート地としても有名である。
その名の通り、島にはたくさんの猫が暮らしていて――そこから寝子島(猫島)と呼ばれるようになったとも言われている。島の観光大使はサンマさん、うむ猫に好かれそうな御方だ。
しかし此処とは違う何処かの世界では、その島の成り立ちそのものが、全く違っていたりするのではないか。そう――例えば猫では無く、ゴリラが徘徊しているような感じで。
「ウホイ」
気が付けば辺り一帯はむせ返るほどの緑に覆われていて、昼なお暗い密林の奥からは時折、野生の雄叫びが響いてくる。ウッホホ、ウホホと――森の主に相応しい美声と共に木霊するのは、大地の鼓動を思わせるドラミングであるのか。
「確か今まで、寝子島を散歩していたのに……」
うららかな春の気配は其処に無く、辺りに満ちるのは圧倒的なまでの大自然の息吹。文明に浸かり切ったひとの身では、瞬く間に呑まれてしまうと危惧した刹那、緑の陰から一頭二頭――ナックルウォークを駆使してゴリラ達が這い出てきたのだ。
「あ……、何で……?」
「ウホ、ウホウホウホ」
言葉は通じない――しかし、彼らは怒っているのだと無意識の内に悟った。そして此処が、もう一つの寝子島と言うべき平行世界で、猫の代わりにゴリラが暮らす可能性に至った場所であると言うことも。
(しかし、ゴリラと人間は共存出来なかった……? 寝子島ならぬゴリ島は見捨てられたのか?)
その存在を顧みられる事無く、孤島で生き抜くことを強いられたゴリラ達。彼らがひとに抱く憎しみは、余りにも深いようだった。
しかしその一方で、ゴリラ達の悲痛な叫びもまた聞こえてくるのだ――猫のように、人々の隣に寄り添いたかった。我々も愛されたかったと言うささやかな願いが。
「なあ、もしかして……お前達が俺らを呼んだのか? その、お前達ゴリラを救ってくれることを願って」
――そんな中、召喚される際に色々とトラブルに巻き込まれた者も居た。
「ウホッ?! ウホウホ!(え?! なんでゴリラになってるの!)」
気が付けば外見がゴリラになって、ゴリラ語しか喋れなくなっていた者。「自分はゴリラじゃない」と訴えようにも、誰が自分に気付いてくれると言うのか。ああ、こうしている間にも、無性にバナナが食べたくなってきた。
「うおおお、ゴリラ! ゴリラが襲ってくる!」
――そして問答無用に、ゴリラに追われている者。話し合おうにも相手は本能のままに暴れており、彼らは己の穢れすら武器に変えて襲い掛かって来る。そう、ゴリラはうんこを投げてくるのだ。
ゴリ島に、鎮魂歌の如く響き渡るドラミング――それを止めることが出来るのは、この世界に召喚された者たちだけだった。
柚烏と申します。マスターページでこっそりと予告をしておりました、趣味に走ったゴリシナリオとなります。なにぶん実験的なテーマを扱っており、人を選びまくりそうなので、問題なさそうでしたらよろしくお願いします。
●舞台の説明
寝子島に猫が居らず、ゴリラが住むゴリ島だったら……そんな『もしも』なパラレルワールドに迷い込んだ、と言う状況です。
しかし、その世界の人々はゴリラと共存出来ず、島はゴリラが徘徊する未開のジャングルと化しています。自分たちを捨てた人間を、島のゴリラ達は憎んでいますが、一方でゴリ島で人間と共に生きたい・愛されたいと言う願いを持っています。
●とりあえずの目標
・敵意むき出しで荒ぶるゴリラ達を落ち着かせ、コミュニケーションを取って仲良くなる(交流重視)
・興奮して会話不可能なゴリラを拳で落ち着かせ、殴り合いで友情を深める(戦闘重視)
※ゴリラの愛が満たされれば、無事元の寝子島に帰還できます。一定時間が経過しても帰還は出来ますが、その間ゴリラの波動に当てられて、日常生活に支障が出る可能性があります(例・語尾にゴリを付けたりなど)
●ゴリラになってみる(GA推奨)
ゴリ島に来た際、自分がゴリラになっていたと言う状態も可能です。ゴリラとのコミュニケーションはスムーズに行えますが、他のPCさんからは他のゴリラと見分けがつかなくなりますので注意が必要です(ゴリラ語しか話せなくなり、会話が出来ません)
互いに「ともだち」設定していれば気付く可能性がありますが、知らない相手同士の場合、余程アクションを工夫しない限り分からないのでお気を付けください。
●ゴリ島のゴリラ
本来は温和な性格をしていましたが、今は孤独と憎しみを抱えて苦悩しています。かなりの怪力で、狂暴な個体はうんこを投げる可能性もあります。好物はバナナ。
シリアスになるかコメディになるかは、参加されたPCさん次第になります。万が一ゴリラ語のアクションが来た場合、アドリブ度Sとして執筆致しますのでご了承願います。