――桜の木の下には『 』が埋まっている。
朧に霞む紅月夜、禍々しくも妖しい月が照らすのは満開の桜たち。妙なる調べを響かせる春風に攫われ、薄紅の花弁は螺旋を描いてはらはらと――空の彼方を目指して舞い上がっていく。
その世界には、桜があった。夢と現、此岸と彼岸の境界を守るように、常に満開の花を咲かせて其処に在り続けた。桜は死者の安息を守り、死後の魂を巡らせる役割を担うとされ――ひとびとは桜の木の下に幾千年もの間、死者を埋葬し続けてきた。
――けれど。永遠と思われた桜の生命も、今まさに尽きようとしていた。循環は失われ、死者は黄泉へ渡れずに、亡者となって現世を彷徨う。
「……何時から、こうして戦い続けているのか」
冴え冴えとしたしろがねの太刀で、真っ直ぐに亡者を斬り捨てた
矢萩 咲は、誰にともなく呟いた。崩れ落ちた屍者は淡い光に包まれて――やがて一際大きな桜の木へと吸い込まれていく。
咲の額から生えるのは、一本の角。それは彼女がひとでは無い――『鬼』であることを意味していた。一ツ鬼、それは死後の安息と引き替えに、桜の守護者となった異形。その肉体に宿るのは、不浄のものを浄化する破邪の力だ。
「桜を守り、還れないものを浄化し続ける……それが使命の筈。なのに」
その時、咲の瞳が捉えていたのは、夜桜を背に此方へと飛び込んでくる男の姿――それは忘れられない、忘れることなど出来ない、幾度となく刃を交えた相手だった。
「堕ちたか、『鬼成り』――!」
「相変わらず、おっかねえな……『鬼矢萩』」
轟音をあげて大地を抉る金砕棒、それを繰り出すものの名は
七峯 亨。艶やかな着物を纏い、不敵な笑みを浮かべる彼の額には、咲とは違う二本の角が生えている。二ツ鬼――それは、一ツ鬼が穢れに染まり堕ちた姿とされていた。一角は純潔、二角は不浄――故に二ツ鬼は、屠るべき存在であるのだが。堕落したかに思われた亨の相貌は、何故だか悲哀のいろに染まっていた。
「なあ……今日が、最後の夜だ。桜の生命は尽き、還りきれなかった屍者が、世界に溢れ出す」
けれど、と続ける亨は気まぐれのように、ひとすじの希望を口にする。もし一ツ鬼が世界の存続を望むなら、一夜で亡者を浄化し続けた後、己の魂を桜に捧げることで、桜を延命させることも可能であると。
「だが、俺達二ツ鬼は、それを阻止するだろうな。あるがままを受け入れ、世界の終わりを愉しもうとする奴も居るだろうし――」
――と、其処で亨の瞳が煌めき、彼は再度金砕棒を咲目掛けて振り下ろす。
「好敵手と戦い続けられることを、ただ一つの望みとする奴だって居る」
「……それが、堕ちた理由とでも言うつもりか?」
刀を手に向き合う咲に、それ以上亨は言葉を返すことは無く――ふたりの鬼は狂い咲く桜の下、運命の一夜に挑むこととなった。
――幾多の亡者、桜守の鬼、そして堕ちた鬼。これは、紅月夜に舞う妖しの者どもが演じる、儚くも激しい一夜劇。
柚烏と申します。お久し振りのシナリオガイドとなります。らっかみ! タイムも桜の季節となりましたので、桜っぽいお話をと考えた所、異世界ものになりました(フツウは何処に……?)今回限りの世界なので、是非思いっきり暴れてみてください。
●舞台の説明
今回の舞台は、桜に守られた和風っぽい異世界です。この世界の桜は死者の安息を守り、魂を循環させる役割を持っていますが、その大本の木の寿命が尽きようとしています。
大本の桜が枯れれば、世界全ての桜も死に絶え、この世界は生ける死者が蔓延り終わりを迎えてしまいます。それを防ぐ為には、桜の守り人である鬼が死者を浄化しつつ、己の命を捧げなければなりません。
しかし、それを阻むのが堕ちた鬼です。彼らはそれぞれの思惑により、世界の終わりや桜の死を望んでいます。
皆さんはこの世界に、どちらかの鬼として存在しています。貴方が望むのは、世界の終わりか存続か……運命の一夜が始まろうとしています。
●キャラクターの立場
貴方はどちらの鬼であるか、アクションに記入してください。その上で『桜を守る』か『桜を枯らす』かを選んでください。
・一ツ鬼~一本角を生やした鬼で、死後の安息と引き替えに桜の守護者となった異形です。不浄のものを浄化する破邪の力を持ち、永遠に桜を守る使命を帯びています。
・二ツ鬼~二本角を生やした鬼で、元は一ツ鬼だったものが穢れに染まったものです。浄化の力は失われ、代わりに穢れをまき散らし死者を甦らせる力を持ちます。
(例・一ツ鬼だけど現実に絶望し、破滅を願う。二ツ鬼になってしまったけど、かつての仲間の為に裏切って協力する、など立場は自由です)
●世界の行く末
・一ツ鬼がどれだけの亡者を浄化できたか
・どれだけの一ツ鬼が桜に己の魂を捧げたか
で未来が変わります。何もしないでいると世界は終わります。二ツ鬼は「穢れにより亡者を強化する」「鬼の魂を消滅させる」能力があり、一ツ鬼を妨害できます。勿論、一ツ鬼を殺そうとする仲間を逆に倒す、なんてのもありです。
●その他設定
・異世界での過去、鬼となる前はどう過ごしてきたのか、どうして死んだのか等あればお寄せ下さい。
・鬼となった外見、扱う武器や戦闘スタイルなどあれば描写の参考にします。
・パラレルワールドが舞台なので、現実世界の記憶は曖昧です。が「なんか懐かしい記憶がある」とぼんやり触れる程度なら大丈夫です。
・かつての親友、恋人同士だったと言う設定も可ですが、お互いに指定している必要があります(一方だけの場合、片思いだったと判定します)
この世界で起こったことは、現実世界には一切影響を及ぼしませんので、異世界での一夜を楽しんでください。それではよろしくお願いします。