さわやかな季節、さわやかなうす緑の風が吹いております。
ですが、窓から流れ込むその風になでられながらも、
海原 茂はあまりさわやかな表情をしておりません。
むずかし屋らしく本日も、いとむずかしい顔をして手許のカードを見つめているのです。
テーブルを挟み彼と相対する
鷹取 洋二は正反対のご様子、口笛で『トルコ行進曲』でも吹きはじめそうな悠然たる表情だったりします。目には微笑、風に揺れるモシャモシャっとした髪は、普段通りのワカメ頭です。洋二の手にも五枚のトランプカードがありました。
「コールだ」
意を決したように宣言し、茂は手前にあった牛乳キャップを一枚残らず前に出します。
「お、勝負しますか」
結構ですねえ、と言いかけた洋二に誇示するかのように、力強く茂のカードがひろげられました。
「A(エース)のスリーカード」
茂の声色になんとなく、得意げな響きがありました。「どうだ」と言わんばかりです。
「お見事、と言いたいところだけど僕は……」
洋二はニヤリとしてカードをオープンしました。
「フォアカードなんですよねえ。2だけど」
確かに、きれいに「2」のカードが四枚そろっていました。
「はい、僕の勝ち。いい手札と判断ではありましたけど、運はこちらにあったようで」
「……フォローはいい。負けは負けだ」
面白くなさそうに茂は腕組しています。
「はっはっは、先輩、そうむくれんでください。しょせんゲームですよ」
「そもそも、どうして俺がポーカーを……」
「まあ、お金を賭けたりしていないし、イイじゃないですか」
この日、昼休みも生徒会室で仕事をしている茂のもとへ洋二がふらりと訪れたのです。トランプと牛乳キャップを持って。
最初は嫌がっていた茂ですが、いつの間にやら洋二の口車に乗せられ、こういうことになっていました。
「先輩はポーカーフェイスはお上手ですけれど、駆け引きのほうは苦手のようで……いや、それは『正直』ということでもありますから美徳ですよ」
「バカ正直で悪かったな」
「けなしてるわけじゃありませんってば。先輩、もしかしてスネてます? 可愛いところありますねえ」
「からかうな」
「おかしいな。さっきから褒め言葉しか口にしていないのに」
口調こそ怒っていますけれど、あまり腹を立てている様子は茂にはありません。
真面目で堅物を絵に描いたような茂、
芸術家らしくイマイチつかみどころのない洋二、
あまり知られていませんが、この対照的な二人が、実は仲が良かったりするのです。
学年的には茂が上ではありますが、なんだかいつも、洋二のほうが彼を手玉に取っているようなところがありました。今日も洋二が、見事に茂を手玉に取ったというわけでした。洋二は、猫のような笑みを浮かべて言ったのです。
「というわけで約束です。僕と付き合ってもらいますよ……放課後の駄菓子屋へ」
参道商店街にあるその店は、いわゆる駄菓子屋さんです。
名は
『きらく屋』。
はじめて訪れる人であっても、ノスタルジアを感じるかもしれません。
なぜならそこには、駄菓子屋だけがもつ不変の空間がかもしだされているからです。
並ぶスナックにおせんべいの数々は、小腹を満たすにもちょっと足りないサイズ。だからこそたくさん食べたいし、食べられる安価なラインナップです。
甘党さんには麩菓子をどうぞ。あんず飴だっておすすめですし、一口アイスだってありますよ。
いわゆるガチャの販売機が店前にずらり。店内にだって、福引きやカードが多数販売されています。
シールがほしいならどうぞ。オモチャだってどうぞ。いずれもチープですけれどそれがいいじゃありませんか。
小学生からウェルカムなこのお店ですが、じつは寝子高生にも根強いファンが多数いるといいます。
色とりどりの宝島のような店の奥、看板娘の
折口 ゆづきが現在、レジのところに座っております。放課後になったので自主的に、祖母と交替して店番に立ったというわけです。
「あれ……?」
ゆづきは顔を上げました。
店の前を、見覚えのある人影が横切ったのです。
ただ通りかかっただけなら特にどうということもないのですが、ゆづきがその少女の姿を見るのはこれが本日はじめてではありませんでした。
一度や二度ではありません。もう、五回ほど見た気がします。この十五分ほどで。
一言でいうなら、華のある少女でした。
栗色の髪はアールヌーヴォー風の螺旋を描き、涼やかな目元は知性と育ちの良さと感じさせます。
すれ違えば、十人中八人は振り返ってしまいそうな印象です。
それにしても、あのゴージャスな少女は、どうしてこう、何度も姿を見せるのでしょう。
店に入りたいけど迷ってる――ゆづきはそんな印象を受けました。気のせいかもしれませんが。
実を申しますとゆづきの直感は正しかったのです。少女……すなわち
剣崎 エレナは迷っていたのです。
「ああ……駄菓子…………私には似合わない。似合わないわ。それに合成甘味料はスタイル維持の大敵! 肌にも悪いしいいことなし! なのだけれど……」
これがいま、エレナの悩みの種なのでした。
よろしくお願い申し上げます。マスターの桂木京介です。
ある日の放課後、駄菓子の『きらく屋』を舞台にした小さな物語です。
どんな風にこの店で短い時間を過ごすか、それをアクションとして書いていただきたく思っております。
なんとなくふらりと訪れるもよし、「今日はトレカの新作入荷日!」というような明確な目的を持ってやってくるもよし、お一人でも、お友達同士でも、ご自由に駄菓子屋ライフを味わってみて下さい。
本日、ここを訪れる予定のNPCは海原 茂と鷹取 洋二の二人です。
茂は買い食いに慣れておらず、実は今日が駄菓子屋初来店だったりします。彼は甘いもの全般が苦手で、『駄菓子屋はキャンディーやチョコレートばかりを売っているもの』と信じているので気乗りしていないのですが、洋二との勝負に負けて渋々……といった様子でやって来ます。『それだけじゃない』駄菓子屋の楽しみ方を茂に教えてあげるのも一興でしょう。
一方で洋二は、駄菓子マニアといってもいいほどのファンで、最近ではきらく屋に顔を出すのが半ば日課だったりします。洋二と駄菓子談義を繰り広げたり、一緒に遊んでみてもいいかもしれませんね。
もう一人のNPC剣崎 エレナですが、彼女も駄菓子屋バージンなのです。
彼女の場合、茂のような勘違いはしておらず、売っているもの(特に甘い物!)には興味津々なのですが、その誘惑にあらがう心があって意を決しきれないでいます。エレナにをお店に誘導してあげるというかたもお待ちしております。
NPCたちについては、絡むアクションをかけられても必ず成功するとは限らないことをあらかじめご了承下さい。
また、彼らとこれまで他のシナリオやコミュニティで知りあっているという場合は、その旨記していただけるととても助かります。
以上、あなたのご参加を楽しみにお待ち申し上げております。桂木京介でした。
次はリアクションでお目にかかりましょう。