――鏡が願いをかなえてくれるんだって。
ある時、そんな噂がひそやかに寝子島内に流れた。
噂によると、その鏡は、旧市街のはずれにある雑貨屋で売られているらしい。
しかも、どういうわけか普段はこんな店に入ったりしないような人でも、ついフラフラと店に足を踏み入れ、気づくとそれを買ってしまっている――そんな不思議な鏡なのだそうだ。
店主によれば、外国のとある貴族が没落したおり、そこにあった大きな鏡を切り分け、手鏡として加工し直したものだという。
アンティーク風のフレームに飾られた手鏡は、持ち主に夢の中で話しかけて来て、記憶一つと引き換えに、願いをかなえてくれるのだそうだ。
+ + +
回田 はつなは、目の前に立つ少女の姿に小さく息を飲んだ。
(……鏡?)
とっさにそう思ったのは、少女が自分にそっくりだったからだ。
手を伸ばし、鏡面に触れてみようとする。
と、少女がにっこりと笑った。
「あなたの願いを、かなえてあげる。……そのかわり、あなたの記憶を一つちょうだい」
「私の記憶?」
「そう、あなたの記憶」
「記憶をもらって、どうするのかな~?」
うなずく少女に、はつなはのんびり首をかしげて尋ねる。
「身を飾るのよ。こんなふうに」
少女は薄く微笑み、自分の首元や腕、耳を飾るアクセサリーたちを示した。
そして、つとはつなの目を覗き込んで続ける。
「さあ、あなたの願いを言って。……どんなことでも、かなえてあげるから」
「私の、願い……?」
はつなは少し困って考え込んだ。
願いごとがないわけではないけれど、こんなふうに迫られて、すぐには浮かばない。
う~ん、う~んと考えているうちに少女の姿は遠くなり――目が覚めた。
「夢だったんだね~」
起き上がり、小さく吐息をついてのんびり呟く。
枕元に目をやれば、そこには手鏡があった。
先日、件(くだん)の雑貨屋で、どうしてだか強く惹き付けられて買ったものだった。
「あの噂、本当だったのかな~」
それを手に取り、首をかしげて彼女は呟く。
翌日。
学校で、はつなは友人の
跡野 茉莉に、夢の話をした。
すると。
「あー……私もその夢、見たよ。私にそっくりな女の子が、夢をかなえてあげるって言ってた」
と答えが返って来た。
「茉莉ちゃんも見たのか~」
うなずいてはつなは、つとポケットから例の手鏡を取り出す。
「やっぱり、この手鏡のせいかな~」
彼女の呟きに、茉莉もポケットから同じ手鏡を取り出した。
二人は数日前、一緒に入った雑貨屋で、どちらも強く惹きつけられるものを感じて、この手鏡を買ったのだ。
「ただ素敵だな~って思って買っただけなのに、不思議だね~」
手鏡をしげしげと眺めて言うと、はつなは顔を上げた。
「もしまた、夢にあの少女が現れたら、茉莉ちゃんはどうするかな~?」
「願いごとはあるけど……それは自分でかなえるものだと思うし、記憶を渡すのは、いやだな」
少し考え、茉莉は答える。
「もし、渡した記憶が私の中からなくなってしまうなら、それは、私の一部がなくなってしまうことのような気がするし」
「あ、そっか~。そうだよね~」
はつなも、うんうんとうなずいた。
その時、ちょうど予鈴が鳴った。
はつなは慌てて手鏡をポケットに戻すと、茉莉をふり返る。
「じゃ、私は教室に戻るね~」
「あ、うん」
うなずく茉莉に、はつなは小さく手を振って、自分の教室へと戻って行く。
それを見送り、茉莉も教室へと歩き出す。
その彼女たちのポケットの中で、それぞれの手鏡が、小さくキラリと輝いたのだった。
回田 はつなさま、跡野 茉莉さま、ガイド登場ありがとうございました。
こんにちわ、マスターの織人文です。
今回は、不思議な鏡にまつわるフリーシナリオです。
どなたでも参加いただけます。
アクションは基本的に自由です。
ただ――
鏡は、みなさんの夢の中で話しかけて来ます。
夢の中では、鏡はPCさまそっくりの姿になっています(なので、少女であるとは限りません)。
かなえてもらえる願いは一つだけです。
願いの代償は、みなさんの記憶です。
記憶は、夢に現れる鏡のアクセサリーになります。
なお、周囲に大きな影響を与えるような「願い」は、かなえられません。
たとえば『地球の滅亡』や『NPCとの結婚』などはNGです。
そうした「願い」をアクションに書かれた場合は、「夢の中の出来事」となります。
ただし、その場合も代償として差し出した記憶は戻りません。
以上をふまえて、アクションをお願いします。
アクションは、できるだけ具体的に書いていただけると、助かります。
なお、どんな記憶を渡すかは、PCさまが任意に選ぶことができます。
ただし、記憶を渡してしまうとそれはPCさまの意識からは消えてしまいますので、その点、お気をつけ下さい。
GAに関しては同じ夢を一緒に見ている、という形になります。
眠っている場所は、別々でも問題ありません。
また、鏡の姿は見るPCさまによって異なる(自分にそっくりに見える)という形になります。
それでは、みなさまのご参加、心よりお待ちしています。