●ゾンビが起こすある種の問題
そこは森だった。うっそうと茂る木々が太陽の光を遮っている。そんな視界も悪い中で複数の人影が動くのであった。ギリースーツを身に着けた彼らは木の陰に隠れながら銃を構える。そして何度も何度も引き金を引いていた。
「やったか!」
敵はたった一人。何度も玉を当てたはずだった。それなのに一向に倒れる気配もない。
何発も撃ち続けてきた。既に弾倉は空である。予備の玉も底をつき始めていた。最早手立てはないのだろうか。
「なんでだ! なんで倒れない!」
誰かが叫んだ。理不尽なこの状況にいらだちを隠すこともなく毒づく。
「ふざけるなよおい、こんなの聞いてないぞ!」
その言葉は怒号に近かった。それでも目の前の敵は微塵も気にしていない。
相手は主人公補正でもかかっているのだろうか。
――否、確かに玉は届いている。先に述べたように彼らの玉は命中しているのだ。
だとすればそれはゾンビなのかもしれない。死しても尚も相手の命を貪ろうとするアンデッドの一種。しかしここは現実だ。ゾンビなどあり得るはずもない。
「さっさと倒れろよ畜生ォ!」
一人が“それ”の顔面に向けて銃口を向け――。
「はいストーップ!」
けたたましいホイッスルの音と共に少女が茂みから飛び出してくる。
「そこのあんた! ゾンビ行為禁止ぃー!!」
●それは一月某日である
「でさー、自分は当たってないの一点張りで、ほんと参っちゃうわ」
「それは大変だったね」
寝子島高校のアナログゲーム部(非公式)の部室――正確には技術室の一角だが――で少女は愚痴を続ける。机の上の玩具に工具を突き立てる少年はただただ頷いた。
玩具は隣のノートパソコンとケーブルで接続されていた。
「ほーんと、マナーもへったくれもないわー。あーゆー行為されると、ほんと冷めちゃうのよね」
「だよね、ルールを守ってる側からすれば、守ること自体損になっちゃうし」
「わかるでしょー? 結局それでサバゲーもお開きだし、あーもう、サイアク! あれじゃうちら(運営側)の面目丸つぶれよ!」
相当腹が煮えたぎっているのか、思い出す度に少女は苦虫を噛み潰した顔をする。
それからしばらく少女の愚痴が続いた。だがそれは割愛するとしよう。もしも聞きたいというのであるならば、それは読者の想像に任せたい。
「できた」
さて少年は不意に手を止めた。玩具からケーブルを外して蓋をねじ止めする。
「なにが」
少女がおもむろに少年の背後から机をのぞき込む。そこには一丁の光線銃が置いてある。
「ゾンビ対策、他いろいろ」
「あー、これって、リモコンの赤外線でも命中判定するアレよね。ネットで見たことあるわ」
携帯電話がスマートな電話に切り替わるはるか昔に一世風靡した光線銃の玩具。それが少年の前においてあった。
「たまたままとまった数が手に入ったし、部品も安いのが手に入ったし、じゃあ改造してみようかなってね」
「あんたって、ほんとそーゆーの好きねー」
そういって少年は光線銃の電源を入れた。
光線銃は受光部をもつヘッドギアとケーブルで繋がっている。電源は光線銃側に搭載されているリチウムポリマーバッテリーだ。ちなみに少年によるフルカスタムであるため本来の仕様とはかなり異なった作りだ。
「例えば、さっき言ったリモコンだけど……」
少年はテレビのリモコンを手にして光線銃から数歩下がる。そして受光部にリモコンを向けてボタンを適当に押した。
反応はない。
「マイコン制御で光線銃以外の赤外線はシャットアウト」
「へー、やるじゃなーい」
少女は感嘆の声を漏らした。
「GPSによって位置の追跡も可能。そして何より――」
不意に少年がノートパソコンを手にした。おもむろに黒い画面で文字を打ち込む。
「“OUT TARGET A”と……」
するとどうだろうか、突然ヘッドギアの受光部のランプが点灯して激しく振動し始めた。
「例外対応として、無線で遠隔操作も可能になっているんだ。まあ他にもいろいろ機能があるんだけど」
「まじで!」
歓心を得て少年は満更でもなさそうだ。
しかしここで少女の脳裏にある不安が過った。
「……そういえば、予算あんたに預けてたよね」
「予算だったらここに」
少年が封筒を差し出した。中身は――領収書と、わずかばかりの小銭である。
「あんた、やっぱりバカでしょ」
「うん」
満面の笑顔で答える少年と、あきれた顔の少女であった。
●ガンブラスターズ
そんなわけで色々と仕掛けが施された光線銃がここに生まれた。正確には予算の都合で十数個しか完成しなかったが。
アナログゲーム部(非公式)は、この光線銃を使った競技を実験的に同校の生徒同士で行うことを決定した。
今回の実験が非常に良好と判断されたならば、今後は島全域で大会を開く予定だ。最もウケが悪ければこれっきりでお蔵入りとなるだろう。
今回は高校生のみが対象となっている。人数もそれほど多くはない。
そして集まった生徒は各々フルカスタムの光線銃とヘッドギアを受け取った。
「これよりわがアナログゲーム部は、校内サバイバルゲームを実施します」
ガジェットを配布し終えて少年が開催を宣言する。
「正午の開始の合図までに各自自由に移動してください」
今回は寝子島高校において高校生限定のサバイバルゲームが行われます。時間帯は日中です。
正午から午後3時までの3時間程度となります。
状況次第ではもっと早くに終わるでしょう。
●ルール
寝子島高等学校の校舎全域を使って行われるサバイバルゲーム。
一定時間経過するごとに使用可能なエリアが狭まっていく。
使用不可となるエリアはランダムで決定される。また時間も数分から十数分の間隔となっている。移動のタイミングはその都度何らかの手段で伝達される。従う必要はないが、使用不可となったエリアに残存した場合は失格となる。使用不可となったエリアは通り抜けも不可能となる。
最終的には逃げ場のない1つのエリアで生存者同士が戦闘することとなる。
5発命中すると失格となる。
行動に関しては“常識の範囲内”としてください。もし仮に運営に著しい不利益が発生すると判断した場合は、最悪一発退場となることもあり得ます。
特に次の行為は一発退場です。
・光線銃やヘッドギアの改造や分解、破壊など
・受光部を物理的に覆い隠す
・運営の指示に従わない
・戦闘放棄
・物理攻撃
・スポーツマン行為に反する行動
・手品(いわゆる、ろっこん)の使用
・配布した光線銃以外の武器の使用
一発退場となった後の描写は保障されません。
創意工夫は自分自身の肉体と限られた環境の範囲で行ってください。
逆にスポーツマン行為に反すると思われがちですが次の行為は可能です。
・談合
・協力
・裏切
・待伏せ
・不意打ち
校舎内で手に入る携行可能な高額でないアイテム(1kg以内、かつ1個まで)の使用は認められます。ただしアイテムは持ち出し・貸し出しの判定が生じます。成功させるには工夫が必要です。
また服装などにより判定が有利に働くことはありませんが、悪目立ちはあります。
文字数というリソースの工夫を存分に楽しんでください。
次は光線銃の仕様です。
●赤外線光線銃
長いのでアクションでは、光線銃と記述してください。
トリガーを引いたら「ズギューン」と音が鳴って目立つ。
最大照射距離は30m程度。ただし確実に命中させる有効射程は半分以下となる。
ヘッドギアとはケーブルでつながっている。
●ヘッドギア
長いのでアクションでは、ギアと記述してください。
前後左右のバイブレーターにより撃たれた方角のおおよそが解るようになっている。
ヘッドギアは360度範囲から受光が可能となっている。1発命中するごとに短く振動しランプが点灯する。5発命中すると振動は止まらなくなりランプも点灯したままとなる。物陰に隠れる場合は頭がはみ出ていると意味はない。
光線銃とはケーブルでつながっている。意外と軽い。だが一昔前のSFっぽく、受光部がアンテナみたいに立っているため頭に装着していると少し恥ずかしい。
●あいさつ
久しぶり! 帰ってきたよ!
……さて、いろいろ考えた結果、やっぱり誰ともかぶらない自分らしさでいくことにしたわけで。
やっぱね、あれこれと考えても、ゲームを主体とするならば削らねばならない部分も多いんですよ。
とかく最後まで読んでくれてありがとう!
リアクションでまた会おうね!