――ねぇ、こんな話を知ってる?
それは寝子島高校に伝わる一種の怪談。学生なら、みんな知っている。上級生は後輩が出来ると秘密を共有するように、ちょっと脅す意味もこめて、話題にする。
――黒服の男がいるんだって。全身真っ黒な衣服の男!
――けど、そいつ、もう百年も昔に死んだ殺人鬼なんだって!
――寝子島の九夜山の、ほら、あそこの近くにある三夜湖に殺した人をばらばらにまいていた殺人鬼!
――三十人は殺したってぇ
――若い女の子だけを狙ってぉ!
――内臓をとりだしてぇ
――どろどろの~
――ぐっちゃぐちゃ!
ときには放課後の教室で。
――ジャック
――名前は、ジャック。嘘か本当かなんてわからないけど、ジャックって呼ばれてる
ときには夏の肝試しで。
――そいつは、女の子ばっかり殺してたの、それで天罰が下ったのね
――警察が事件の真相を解いて、捕まえようとしたんだって!
――自宅にいくとジャックは百匹近い猫にかみ殺されていたって!
――死体すら残らなかったんだって!
ときには部活動中の暇な時間で。
――どうしてこんなお話をするかって? 知ってる? ジャックはそれからずっと彷徨って、女の子を探してるんだって
――切り裂くために
ときにはテストがはやく終わっての帰り道。
――それからよ、寝子島は定期的に通り魔が出るの
――十年に単位でぇ
――若い男の子でね、ジャックに目をつけられたら、ずっと囁かれるんだってさぁ
――四六時中、傍らで、コロセって
――それで頭がおかしくなっちゃって
――もともと、なんっーか、心の弱いやつを捕まえるんだってさぁ
――そう、そう。抵抗の少なさそうな自信のないやつ
――せんのーだ、せんのーするのによさそうなやつ!
――そうそう、それでさぁ、やばいのはここから
――ジャックに憑りつかれると寝子島高校に通う女の子をぉ
ときには文化祭のお化け屋敷のネタとして。
――夕暮れに紛れて捕まえて、三夜湖に連れ去って、殺すんだって!
ときには帰り道の夕暮れに、他愛無い怪談は語られる。
――え、その憑りつかれた男の子? 最後はねぇ、自分で自分の首を引き裂いて自殺するんだってぇ
殺人鬼ジャックの怪談。
■ ■ ■
ころしてしまえ
ほら
はやく
ころしてしまえよ、なにを恐れるんだ? ははは、本当にぐずだな。もう高校二年生だろう? 新しい年がはじまった。ほら、お前にとっては目立たない、馬鹿にされるだけの新しい年が!
いやなら、ほら、クラスメイトの白い肌にナイフを突き立てろ
ああ、ああ、みてみろ、赤い血液の、熱いほどばしりを! なにを恐れるんだ、どうするんだ? なぁに、怖くないさ。たのしいじゃないか。殺すことは、とっても楽しいことだ。ほら、私の声を聞け。私の声を聴いて従え。わかっているんだろう? ああ、お前を馬鹿にする女たち! ほらほら、またお前を見て馬鹿にしている。がり勉くん。ほら、みろ、あの女たちの醜いことといったら! 思い知らせてやれ、お前のことを。お前には力がある。ほら、ナイフを手にしろ。コロセ、コロセ、コロセ、コロシテシマエ!
「うわぁあああ!」
耐え切れずに叫んだ。
叫んだ直後に、はっと息を飲んでここがどこなのかに気が付いた。
寝子島高校の、二年生の校舎の廊下だ。部活動の生徒が多く、足を止めて、青年を見る。視線を集めて青年は気恥ずかしげに俯いた。
奇妙なものを見る目に青年は俯いて、震える。目立たない青年は下唇を噛みしめる。
「大丈夫?」
青年がきくりと震えて顔をあげた。その視線の先には黒髪に、つぶらな瞳をした
串田 美弥子がきょとんとした顔をして立っていた。
「気分悪いなら、保健室に行く? 私、付き添いしようか?」
「ぼく、ぼく、ごめん!」
青年が慌てて駆け出していくのに美弥子は置き去りにされ、伸ばした片方の手は行き場もなく彷徨った。
美弥子は目を大きく見開く。
黒いコートに身を包ませた男が静かに微笑んでいる。男はゆっくりとした足取りで青年のあとを追い掛けていく。
「まっくろ……あの男の子の保護者とかかな?」
「真っ黒い人? なにいってるの? そんな人いないよ」
「え?」
美弥子は一緒にいた友達の言葉に目を瞬かせる。
美弥子はもれいびだ。しかし、一緒にいる友人はなんの能力もないただのひとだ。
--もしかして、もれいびにだけみえた?
「普通の人じゃないの、かな? あ」
美弥子は廊下に落ちた生徒手帳を見つけた。そっと持ち上げて見ればそこには「二年一組・山田達也」と青年の顔写真と名前が記載されていた。
山田達也が行きついた先は、男子トイレだった。個室のなかにはいると、しっかりと鍵をかけて、便座に腰かると頭を抱えて震えていた。その前にどうやって入ったのか黒服の男が立っていた。彼はゆっくりとかがみこむと耳元に囁く。
――あの娘、私が見えたよ。どうする? お前のこともばれてしまったよ? きっと、あの娘はお前のことを他のやつにいいふらすだろう。
突然に逃げたことや叫んだことを言いふらすかもしれない。そう懸念したとたんに脳内に浮かぶ。先ほどの女の子の姿。笑っている。可愛い唇で、優しげな明るい声で。紡がれる。ひとりぼっちなやつ、だれもりかいしてもらえないやつ、きもちわるいやつ、ねくらなやつ、あはははは、あはははは、あはははは。
それがジャックの悪意の言葉からの夢だと山田にはわからない。山田に出来るのはただ逃げきれない悪意に絡みとられて、嗚咽をかみ殺して震え続けることだけだ。
――かわいそうに。そうだ。笑われるのは、馬鹿にされるのはいやだろう? 名案がある。さぁ殺してしまえ、あの娘がお前を笑う前に、殺せばいいだけだ。放課後に、捕まえて、ひきずって、お前の力を思い知らせてやれ。そうだ、コロセ、コロセ、殺してしまえ、楽しい、たのしい、たのしい、たのしい、ぐちゃぐちゃぐちゃの、どろどろに! ばらばらしてしまえ!
とってもたのしいヨ、あの娘をコロセ
大丈夫、私の言うとおりにしたら、なぁにも、失敗しないさ
ちょっとダーク系のシナリオで、はじめまして。北野です。
※注意※ このシナリオはダークなシナリオのため、場合によっては不快な表現が出る場合があります。
・目的
串田 美弥子を守ってください。
寝子島高校にまことしやかに流れる怪談の殺人鬼ジャックに憑りつかれてしまった山田達也くんは、美弥子を殺そうと考えています。
殺害方法はプロローグに出ている通りです。彼は放課後に美弥子を襲うつもりです。
山田くんはただの人です。乱暴なことをしたら簡単に死にます。また精神的にも大変弱っているのでアプローチを間違えたら怪談の結末通りの結末を迎えてしまいます。。
彼はジャックに、自分はみんなに馬鹿にされていると洗脳されています。
プレイヤーは以下の点からアプローチできます
・美弥子が山田くんの手帳を拾う場に居合わせ、ジャックを目撃した
・山田くんのクラスメイト(山田くんは二年一組の生徒です)
・十年に一度の事件の年ということで、ジャックの噂を聞いて調査している
ジャックは実体はありません。アクションを書かれる際は以下のことに気を付けてください。
・もれいびには見えます
・霊感あったらみえる
・一般人は見えません。(見えないなりのアプローチをお考えください)
たとえもれいびで見えたとしても、物理的な方法は一切ききませんのでその点についてはご注意ください。
ジャックには苦手なものがありますし、山田くんから引き離すことも出来ます。それはプロローグにヒントをばらまいたので推理してください。
では、楽しくぐちゃぐちゃーのどろどろのばらばらー♪