寒空とフツウの人なら良いそうなものだが、風もなく、穏やかな日差しが肌に暖かさをもたらす。
そんな中、仮設テントに入って肌に日焼け止めを塗る少年…いや、青年と言った方が良いだろうか。
彼の名は
神木 ゆと。執事喫茶で働く駆け出しモデルで心身とも自分磨きを欠かさない。
「おはようございます!」
「はーい、おはよう」
仮設テントから出てきたゆとは、スタッフに業界的な挨拶を交わし、撮影現場へと歩く。
その足取りが軽そう見えるのは指名を受けての仕事であったからだろうか。
以前、何気なく入った居酒屋で知り合ったイベント企画会社に務める久保 直也の引き合いだった。
「来ていただいてありがとうございます。人手が足りなかった訳ではないのですが、せっかくでしたので」
「いえいえ。こちらこそ。連絡いただいときはびっくりしました」
その直也と現場で会い、朗らかに話すゆと。
直也の言う『人手が足りなかった訳ではない』に少しだけ心を痛めながら、今回の仕事を反芻する。
今回、監督の趣向により一般人を起用して、いくつかの撮影がスタジオと屋外で繰り広げられる。
さほど大きくもないそのスタジオには新人カメラマンと新人ディレクターがそろっている。
言ってしまえば時期外れの新人研修なのだ。
「OKもらえて良かったですよ。さすがに一般人…と言うと語弊があるんですけど。それだけでは、と」
「素人さんにも、センスのある方はいますからね。なかなか侮れないものです」
直也のすまなそうな顔に朗らかに返すゆと。
自分より年下で活躍している人など大勢いる世界だからだろうか、少しだけ語気が強く感じる。
自分の実力だけではどうにもできない世界。
それに飛び込もうとしていると言うのは相応の覚悟があるのだろう。
「僕は表紙と…CMでよかったですよね」
「えぇ、そうですね。と言っても説明した通り、申し訳ないんですが保証は出来ません」
ゆとは始めの仕事、寝子島の回覧板の表紙のためスタジオ内に在る、目立つグリーンのブロックへ向かう。
寝子島の回覧板と言っても、配られるのはごく少ない箇所に回覧される、チラシのようなものであった。
直也はゆとへ諸々の説明をしながら、手早く準備を済ませ、新人カメラマンと入れ替わる。
緊張の為か、敬語ではなしつつ、笑わせようとする話もそこまで面白くない。
「その話、少し興味があるので今度もう少し聞かせて下さい」
世辞とまでは言わないが、少し感情のボリュームを大きくして撮り終わった新人カメラマンに話すゆと。
新人の内は…と言うよりいつの時も人と言うのは褒められ、注意され、反省して成長するものである。
心得かのように相手を思いやることが出来るのは執事喫茶で働いていたからかもしれない。
そんなゆとと場所を同じくするスタジオ前に人だかりが出来ていた。
そこに集まっている人達は今日、新人研修を手伝って貰う一般の人々だ。
自ら応募した人やその人に誘われた人、街で声をかけられた人などプロから素人さんまで様々だ。
「お集まりいただきましてありがとうございます、本日はよろしくお願いします」
●●●舞台・背景●●●
九夜山の近くに在るスタジオを一日貸し切って、新人カメラマン・ディレクターの教育をするという、
稀有な監督が開催した撮影会に皆様は参加する形になります。
撮影するものは回覧板のチラシと夏ごろに寝子島で放送されるCMになります。
採用されない可能性が在ることは募集されている際にしらされております。
題材はある程度自由としており、持ち込みを推奨しています。
設備としては背景を単色に切り替えられる撮影現場と外にある若干の自然がある場所になります。
また、衣装については民族衣装から発泡スチロールで作られた武器や武具など、豊富に取り揃えています。
どれかを選んで撮影する形になります。
●●●登場人物●●●
・久保 直也(くぼ なおや)
学年・職業:会社員(イベント企画会社、一プロジェクトリーダー)
性別・年齢:男・27歳
性格 :NOと言えない日本人代表。フツウではない事を何度か目撃した事があるため抵抗がある。
・監督(かんとく)
学年・職業:会社員(雑誌・CMの撮影会社)
性別・年齢:男・42歳
性格 :普段から自分の事を「監督」と呼ばせており、本名を知っている人は少ないらしい。
●●●その他●●●
Q:ろっこんを使用した撮影は可能なの?
A:今回、フツウじゃない事は特段起きておりませんので、ろっこん自体の能力が低下している、
またはそもそも発動が出来ない、という状態になります。
Q:映像はどのくらい編集が加えられる?
A:ほぼカットの繋ぎ合わせになります。文字や効果の要望は聞くだけは聞く、とのスタンスの様子。
Q:お昼ご飯は! でますか!
A:で…ます!