『動物霊園』-3-
と、先程の納骨棺の辺りから、小さな光が現れた。
二人は目を閉じ気付かない。
光は二人に纏わりつき、甘えるように間をすり抜ける。
光が寂しげに瞬くと、周囲の墓石から無数の光が現れた。
霊園中を無数の光が跳ね回り、新たな仲間を歓迎する。
二人の元から小さな光が、跳ねて止まって、去って行った。
光たちは雪と戯れ、霊園を駆けまわっていたが、二人が手を擦り頭を下げると、慌てたようにそれぞれの墓石へ沁み入る。
二人が目を開ける頃には、霊園は再び静寂に包まれていた。
「帰ろうです、お爺さん」
宝は顔を上げ、孫の顔を見ると満足そうに「ああ、そうだね」と立ち上がった。
今まで何度も通った道を、これから何度も通う道を、祖父と孫が帰って行く。
二人の足音が聞こえなくなると、そこら中の墓石から、再び光が飛び出した。
観音像は笑みを浮かべて、霊園を見下ろす。
音無き霊園には以外にも、賑やかな光景が広がっていた。
『動物霊園』-2-
霊園の奥。
観音像が見下ろす、ひと際大きな墓石の前で二人は歩みを止めた。
宝が慣れた手つきで雪を払い始めると、傘を畳んで姫もそれに倣う。
墓石が露わになると宝は一度手を合わせ、拝石を上げて納骨棺を開いた。
棺には複数の骨壷がすでに納められている。
姫は無言で頷くと、コートの下に抱えていた風呂敷から、小さな小さな骨壷を取り出す。
胸に抱いて目を閉じると、心の中で話しかけ、壺の蓋を二度撫でた。
骨壷は納められ、拝石が再び棺を閉ざす。
二人で手早く花を供え、蝋燭を灯し、線香を焚いた。
白い煙が雪空に紛れる。
墓前には幾つか爪痕のついた、ねこじゃらしが供えられた。
二人は姿勢を正して手を合わせると、目を閉じて祈る。
仲間の元で、幸せにと。
『動物霊園』-1-
降り続く雪が周囲の道路や森の音を吸い取って、辺りは静寂に包まれていた。
大小様々な墓石が立ち並ぶ霊園。
石に刻まれた文字は人名にしては少し奇妙で、そこが動物の為の霊園だと聞けば納得するだろう。
物言わぬ石達は一様に雪の綿帽子を被り、今日も内に眠る小さな魂を鎮めている。
そんな中を老齢の男性と少女が唯一、新雪の擦れる音を立てて歩いていた。
帽子を被った老齢の男性、猫屋敷宝は後に続く傘をさした少女、孫の猫屋敷姫を気遣いながら目的の墓石へと向かう。
幾年も通い続けた宝と違い、姫にとって雪の霊園は初体験である。
何度か足を滑らせながら、遅れぬように祖父を追う。
「静かです……--っ」
喋った拍子に再びよろけた孫に、宝は笑って手を差し伸べた。
俺からも頼む
職業上「死」とは無縁でいられない以上
生前はどんな奴でもせめて魂だけは救われて欲しいと・・・
そして神の前では皆平等であらんことを祈るばかりだ
飼っていたペットは言わずもがな、
野良の動物が多ければ、多くは仲間によって葬られど、
それだけ誰にも看取られずに死んでいく魂もあるのです。
もし見かけたら、供養してあげてくださいです。