器用に真新しい一本を抜いて咥えた霧人が、その時初めて失態に気付き、薄闇に紛れてばつが悪そうな表情を浮かべる。
こいつのこんな顔久しぶりに見る。
なんでもできる兄貴のレアな表情が痛快で、珍しく寛大な気持ちになった雷一がほくそえんで顎をしゃくる。
「顔よこせ」
意図を察して大人しく従う霧人にすりよる。
うりふたつの顔が急接近し、床で絡まり合った鎖が擦れて音をたてる。
痛みの余韻と発熱とで鈍く疼く体で這いずり角度を微調整、ニコチンをたっぷり含有した吐息を煙に乗じて吹きかける。
高圧的に目を眇めて悪ふざけを牽制する霧人。
それに対し、下からすくいあげるように目だけで嗤う雷一。
付かず離れず微妙な距離感、一跨ぎで越えられるのにけして埋まらない溝、一番近くて遠い片割れ
穂先を合わせ火を移す。
火を分かち合うよく似た顔が炎に照り映え、雷一の右肩の蝶も鮮やかにひきたつ。
「久しぶりだろ」
「ああ。……苦いな」
煙草をふかしつつ皮肉めかして独りごちる霧人に鼻を鳴らし、持て余した煙草を指の股に預けてのけぞり、鉄骨が組まれた天井を仰ぐ。
二人分の煙が絡まり合って虚空に上っていく。
それはまるで運命を暗示する手錠の鎖の如く……