嫉妬は緑の目をした怪物だ。
対面でグラスを揺らす男の瞳を見て、シェークスピアの戯曲の一節を連想する。
倦怠と韜晦に物憂く煙る翠の瞳…外国の血が混ざっているのだろうミステリアスな瞳の色が、日常に忙殺され風化した記憶を刺激する。
『もし悪魔がいるとしたらそいつはどんな目の色をしてると思う?』
あの時自分はなんと答えただろう。
思い出すのはそう問うた友人の瞳。
代を重ねて外国の血が複雑に混じりあった瞳の色は、光の加減で精巧にカッティングされた琥珀にも見えた。
テーブルに置かれたカクテルを見下ろす。
男の手元にはキス・イン・ザ・ダーク、自分の手元にはセブンス・ヘブン。
彼がどういう意図をこめて見立てたのかは推し計るより他ないが、七番目の天国の名を冠したこのカクテルはむしろ目の前の男にこそ似つかわしいと思う。
白く煙る液体に浸された緑のマラスキーノ・チェリーは男の瞳と同じ色。
アルコールに漬けこまれて舌がしびれるほど甘く冷えている。
暗闇にキスするようにほくそ笑む男の手にはキス・イン・ザ・ダーク。
誰かが流した血のようにメランコリックに赤い。
もし悪魔がいるとしたら、そいつはきっと懐かしい誰かに似た目をしている事だろう。