声が聞こえた。助けを呼ぶ声が。
――分かっている。
独りは嫌だ。
――馬鹿を言うな、誰が独りにさせるものか。
怖いよっ、助けてよっ!
――おう。
いつも応えるように、心の中で呟いた。
目の前に立ちはだかるのは、世界の壁。
絶望に覆われた世界と、日常を隔たる壁。
――だが、あいつが呼んでいる。
踏み混むにはそれで十分だ。
拳を握り締めるのにはそれで十分だ。
――ったく、泣いてんじゃねーよ。
振りかぶり、一撃。まだ足りない。
分かっている。容易く行かないのは先刻承知だ。
「もう一発。全力で行くぜ」
間を取り、一呼吸。
疾走、振りかぶる。
形振り構わぬ、全力の一撃。
境界が、砕け散る。