授業風景～３年体育科の場合～｜リアクション

授業風景～３年体育科の場合～

【休憩時間の一幕】

　５時限目、校庭での体育の授業中に、普堂しおりは熊吉先生がプールで水泳の指導をしていることに気がついた。
（先生、泳ぐのかな……？）
　しおりの頭の中では、川で鮭をとったり、氷山の下を泳ぐ熊吉先生の姿がイメージされていた。
（わあ、すっごく気になる～！　先生、どんなふうに泳ぐんだろう？）
　あの重量だ。普通に泳いでも迫力があるに違いない。
　好奇心がうずき、しおりは５時限目が終わるとさっそくプールサイドに近づいていった。

　鐘の音とともにプールからはホイッスルが鳴り、生徒たちが水からあがった。
「……あれ？　あ、プールも休憩にはいっちゃったんだ」
　お目当ての熊吉先生はというと、ざぶんざぶんと勢いよく泳ぎながら、プールサイドに向かっているところだった。
　その、トドとも熊ともつかぬ泳ぎっぷりに、しおりは歓声を上げた。
「わっ、先生、すごーい！」

「おい、そこにいるのは普堂じゃないか！？　ここで何しとる！」
　フェンスごしに顔をのぞかせるしおりに気づいて、水からあがった熊吉先生が、相変わらずの大声で呼び止めた。
「あっ、えっと、水泳の授業に興味があって見学に来ました！」
　率直なしおりの言葉に、熊吉先生はうなずいた。
「そうか、普堂は水泳に興味があるのか。体を動かすのはいいことだぞ、子供はひたむきに学んで、ひたむきに遊ばなくちゃいかんからな」

　拍手をするほどの見事な泳ぎっぷりだったので、しおりはこんな疑問をぶつけてみた。
「先生は寝子島出身なんですか？」
「俺か？　ああ、そうだぞ」
「そっかぁ。やっぱり、昔から海とかで泳いでたんですか？」
（先生の子供のころって、どんなんだろう？）
「昔か、そうだな……」
　腕組みをした熊吉先生は、空を仰いで、目を細めた。
「海でも遊んだし、山でも遊んだな。海でも川でも、泳いだぞ。毎日日が暮れるまで遊んだもんだ」
「川で鮭もとったんですか？」
　うっかり印象のままに訊ねたしおりに、熊吉先生は真面目に答えた。
「鮭はさすがにいないだろ。川魚ならつかまえたな。遊びの中で学ぶことも多いんだぞ」
　経験は無駄にならないから、真面目に遊べと、熊吉は語った。
「そっか～、だから先生、泳ぐの上手なんですね」

　プールサイドにいる３年生は、体育科の生徒なこともあり、引き締まった体つきの人が多かった。
「３年生になったら、泳ぎも難しくなるんでしょうか？」
　いまいち自信のなさげなしおりの言葉に、熊吉は胸をたたいた。
「今日より明日だ、普堂も励め！　努力は必ず実るからな！」
　力強い励ましに、しおりはその気になった。
「はい！　体力つけて、いつか先生みたいにたくましくなります！」
　しおりの頭のなかには、筋肉がついてガッチリ体型になった自分の姿が浮かんでいた――。

　ちらっと時計に目を向けると、休憩時間も終わりが近い。
（着替えないといけないし、もう行かなくちゃ）
「先生、ありがとうございました！」
　ぺこりと頭をさげて、立ち去り際に、しおりは熊吉先生に告げた。
「そうだ先生、もし、不思議だったり奇妙だったりするようなことがあって困ったときには、生徒にも頼ってみてくださいね」
　いぶかしげな熊吉先生に、しおりは生徒もなかなかやるものなのだとアピールしておいた。
「生徒は生徒なりに、けっこうすごかったり、役にたてたりするかもしれないのでっ」
「普堂が言っていることは逆だろ。教師が生徒を助けるもんだ」
　かたくなな熊吉先生の態度にも、しおりは満足げに手を振った。
「はーい、それじゃ、お邪魔しました～っ」
　ちらっとでも覚えていてくれて、いつか先生の支えになれたら嬉しいな、と思いつつ、しおりは笑顔で挨拶をして、校舎へと走っていった。

【授業を終えて】

　６時限目も終わりに近づき、プールに再び、ホイッスルの音色がひびいた。
「よーっし、今日はここまで！　着替えて解散！」
　熊吉先生が手を打ち鳴らし、生徒たちは更衣室へとおしゃべりをしながら去って行った。
　きらきらと陽光を反射するプールを見回す熊吉先生の顔は、達成感に輝いていた。

END

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あとがき

担当マスター：瀬野とうこ
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３年体育科の授業風景をお届けいたしました。
このたびは水泳ということで、いやあ、夏らしいですよね、水泳！

さわやかなプールサイドで、内容もさわやかな授業となりました。
清涼感あふれるアクションをお寄せくださり、まことにありがとうございました！

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