PEEPING　GHOST！！｜リアクション

PEEPING　GHOST！！

●サキリ・デイジーカッターの場合

　長い年月を経た物品には、付喪神が宿ると言われる。
　サキリ・デイジーカッターの所有する、ダマスカスブレードもその例に漏れなかった。

　サキリがいつものように所有する刃物の手入れをする。
　どの刃物にも愛情を注いではいるが、神魂の効果で現れた伝説の刃、ダマスカスブレードは一際念入りに手入れを行っていた。
　縞模様を指でなぞり、その美しさに溜め息を零した。
「今日も綺麗だ」
　そう呟いた瞬間。
　ダマスカスブレードがムクムクと人の形を取った。
「いつもありがとうございます、御主人様」
　突如。刃は１６歳程の少女の姿に姿を変えたのだ。
　流石の状況にサキリは目を見開いた。
　褐色の肌に、美しく整った表情。エキゾチックな踊り子のような服装に身を包み、サキリに熱い眼差しを送る少女。
「こうやってお話ができるなんて、夢のようです」
　ニコリと微笑むと、白と黒が入り混じる髪がサラリと揺れた。
「もしかして、ダマスカスブレード……？」
　サキリの言葉に彼女は頷いた。
「御主人様とお話したい、と願いましたら……叶ったみたいです」

　サキリは彼女を寝子島を案内した。
「わぁ……なんて穏やかな空気」
　彼女が微笑む。
　大事な刃ゆえ、ここぞという時にしか持ち歩かないダマスカスブレード。
　こうして寝子島を共に歩くことなど殆どない。
（こんな風に付喪神に出逢う日が来るとは思わなかった）
　しかも、こんなに穏やかな日常を過ごせるなんて。
　普段であれば、闘うのが定めである刃。明るい日差しを堪能させてあげられることはサキリにとって喜ばしいことだった。
「御主人様、あれは何ですか？」
　興味津々、といった面持ちで彼女は一軒のお店を指差した。
「ん？　あぁ、あれはパンケーキのお店だよ。食べてみたいかい？」
「ぱんけーき？」
　彼女は首を傾げたものの、嬉しそうに頷いた。

　注文したパンケーキが届くと、彼女は満面の笑みを浮かべた。
「甘い香り……これがパンケーキ、なのですね」
　彼女が皿を持ち、ハンバーガーのようにパンケーキをかぶりつこうとするのをサキリは慌てて静止した。
「ちょ、ちょっと待って。これはこうして食べるんだよ」
　ナイフとフォークを手に取り、慣れた手つきで丁寧にパンケーキを切り分けていく。
「わぁ、ナイフさん、暖かくて甘くて気持ちいいでしょうね」
　うっとりとした表情の彼女に、流石にダマスカスブレードでパンケーキは切れないな、と思うサキリだった。

「御主人様、とても楽しかったです」
　二人は猫鳴館のサキリの部屋へと戻ってきた。
　充実した表情にサキリも笑みを返す。
「私、そろそろ戻りますね」
　晴れやかな顔の彼女に、少しだけサキリは寂しさを覚え。
「今日過ごした日常はかけがえのないものだ。そして非常に脆くて儚い」
　真剣な表情で、彼女はサキリの言葉に耳を傾けた。
「だから、僕は守りたいんだ。これからも共に戦ってくれ、ダマスカスブレード」
　そう言うと、サキリは彼女の頬を優しく撫でた。
　彼女はその手にそっと触れる。
　この主人の手が大好きなのだ。
　時に強く、時に激しくこの身を掴み。
　その後は優しく手入れをしてくれる、この手が。
「共に戦います。いつまでも、御主人様と共に」
　彼女は笑う。そして彼女の身が光に溶け……一本の刃へと戻った。
　
　サキリは愛しさを込めてその刃を手に取った。
「またいつか、会える日が来ることを祈るよ」
　そう、彼女に笑いかけた。