『魔槍』-3-
暗はネコジャラシを猫に差し向け、右に左に振ってみせる。
誘う様にゆっくりと、時に獲物が跳ねるような俊敏さで。
猫はそれに合わせて視線を動かす。
「フハハッ、魅了されているようだな? 我慢する事は無い。内に秘めし野生を、狩猟の本能を解き放つが良い」
三毛猫が、跳ねる。
激しい戦いに、終わりが訪れる。
暗は名残惜しげに魔槍を納めると、代わりに煮干しを三尾、置いて立ち上がる。
「楽しめたぞ、ケルベロスよ。いずれまた戦場で相見えよう」
立ちこめていた靄はすっかり晴れ、澄んだ青空が広がる。
寝子島のフツウな一日が、今日も始まろうとしていた。
『魔槍』-2-
三毛猫は歩を止め、暗を値踏みするように見る。
「ほう、愚かでは無いようだな。俺の力を感じ取ったか」
猫は一度顔を撫で、前足を舐める。
「フッ、爪を研いで余裕を見せるか? だがお前は取り返しのつかない失敗を犯した。
戦いは常に先手必勝。瘴気に潜んでの奇襲を失敗した時点で敗北していたのだ」
言って暗は通学カバンに忍ばせた右手を引き抜く。
「さあ、死を呼ぶ無数の棘を纏う魔槍ゲイ・ボルグよ。愚かな番犬の心臓を射抜け」
差し出したのは、しなやかな材質で出来た棒状の物。
その先には無数の毛がフサフサと並び生えている。
ネコジャラシ……ですね。
『魔槍』-1-
「殺気……だと?」
冷え込み厳しい冬の朝。
靄のかかった寝子中への通学路を少年、三夜暗は歩いていた。
靄の向こうから、ただならぬ気配を感じた暗は、油断なく通学カバンに右手を忍ばす。
やがて影が現れた。
初めは薄くぼんやりとしていたソレは、徐々に、徐々にその存在感を増していく。
「瘴気が、濃すぎるか?」
状況は敵に有利。
暗のコメカミを、汗が伝う。
やがて靄の向こうから、ソレは悠然と姿を現した。
スラリと伸びた四足、真っ直ぐ暗を捉える赤身のかかったの双眸。
ピン張った三角の耳に、無限の敏捷性を内包したかのような腰付き。
三色の毛並みは色鮮やかで、ユラリと揺れる尻尾が挑発的だ。
ソレは中々の美三毛猫。
「現れたか、魔界の門を守護するケルベロスよ。生憎今日、魔界に用は無い」
……突っ込まないよ?
いいか太陽。まずはバットを持った敵が二人いるところを想像するんだ。前に一人、後ろに一人、だ。
前の敵は斜めにバットを振り下ろしてくる。それと同時に後ろの敵は横薙ぎにバットを振ってくる。
そこで右の手のひらで前の敵のバットを受け止め、左の手のひらで後ろの敵のバットを受け止める。
後はバットをひねりつつ敵を投げれば、梃子の原理で太い方を持ってる方が有利だから簡単に敵を倒せる。
その際、攻撃を止められた敵が驚いて力を抜いた一瞬を見計らうのを忘れるなよ……こういうのはタイミングが一番重要だ。
あん兄ちゃん!カッコいいポーズだね!ぼくもやるー!
ちょっと待ってろ……一番いい角度を探してる最中なんだ……。
おーいどっか疼いてんのかー?
晩飯できてるぞー