微かなパイプオルガンの旋律に呼ばれるように歩を進める。
辿り着いたのは聖堂を思わせる建物だった。
足を踏み入れると、人の出入りがなくなり多くの時間が過ぎているような印象。
だが荒廃という雰囲気はなく、樹齢1000年を超える大木のような安心感を感じさせる。
パイプオルガンの音は止んでいた。
「おや…いらっしゃいませ」
優雅な笑みを浮かべ、真っ直ぐに紫の瞳を向ける男。
白く大きな羽根がふわりと揺れる。
だが、その男の身なりや口元を片方だけ釣り上げ笑む表情は
天使というよりは、どこか悪魔的な魅力を感じさせるものだった。
「恐れ入りますが、こちらの場所は貴方の所有物でしたでしょうか?」
男の問いに首を横に振る。
「そうですか。フラフラしていましたらこの場所を見つけまして…あ、私はアケーチと申します」
勝手に色々ものをお借りしてしまったもので、と手に持つ燭台をそっと掲げた。
青い光がボウッとアケーチの顔を照らす。
「…ふふ。雨宿りも出来そうですし、また遊びにくるとしましょう。それでは…」
彼は燭台を持ったまま出口へと向かった。
目についたパイプオルガンの蓋を開き、鍵盤を叩く。
カタ、カタッと鍵盤は空振りの音を出すだけだった。