『白刃と淡き光』-2-
「怪我は……、ああ、ひでえな」
一見して兵士の状況を判断すると、男は切り裂かれた足に手を当て呪文を唱える。
淡い発光と共に、足の痛みが引いていった。
「今はこれだけしか治せねーけど、とりあえず走れるだろ?」
兵士は頷き、感謝の言葉を繰り返すと、味方の陣地へ戻って行った。
兵士を見送り、戦場を見渡した男は頭を掻くと、溜息をつく。
「まだまだ仕事が、山積みみてーだ」
戦況は泥沼の様相を見せている。
癒し手であり、力強い戦士でもある男の力は、各所で必要とされている。
「そーいやアッチに可愛いねーちゃんが居たな?」
斧槍を担ぎ、見据えるのは最前線。
地獄の如き戦場を、男は笑って駆け抜ける。
『白刃と淡き光』-1-
ここまでか……。
今まさに振り降ろされようとしているオークの棍棒を、傷ついた兵士は他人事のように見ていた。
故郷の家族を思い浮かべ、自然と涙が零れる。
叶うなら、見渡す限り金色の稲穂が揺れる、美しい故郷で死にたかった。
濡れた眼前に、棍棒が迫る。
----ッ!
哀れな兵士の顔を潰す寸前で、巨大な棍棒は断ち切られた。
オークは不思議そうに、半分になった棍棒を見る。
「大丈夫か?」
兵士の視界が、白いローブに遮られる。
声を掛けて来た男はまだ若く、少年と言っても良い位の歳に見えた。
「とりあえず、あの汚ねえ肉団子を片づけなきゃな」
言って男は斧槍を構えると、漸く事態を飲み込んだオークへ向け、振り降ろす。
血濡れた斧を地面に置くと、男は兵士に向き直った。