『縁側』
九夜山の麓に陽が沈む。
旧市街の民家、その縁側に少女が二人。
静かな冬の夕暮れ時に、庭を隔てた石垣の、向こうの空を眺めていた。
「こずえちゃん……、やっぱりまだ寒いかなぁ」
座布団の上で体を丸めながら、壬生由貴奈が訴える。
「はい先輩。ちょうどお湯が沸いたので、中から温めましょうね」
手慣れた手つきで日本茶を淹れるもう一人の少女、屋敷野梢は手近に置いた石油ストーブの上にヤカンを戻した。
湯呑みから立ち上る湯気。
茶を啜る僅かな音と松の枝の揺らぎだけをBGMに、紅い空がゆっくり、ゆっくりと色を失っていく。
追いかけるように星達が、澄んだ黒を彩り始めた。
「あー……」
こりゃ綺麗だ。そこまでは言葉が出なかった。
「ですよね?」
見透かしたような梢の相槌に、思わず顔を見つめ、頬を緩める。
多くは必要ない、そんな間柄なのだ。
笑顔のままで、再び見上げる。
凛とした冬の空気は縁側の、オレンジの炎の周りで揺らぐ。
夜空を見上げる少女たちの間で、ヤカンの蓋がカタリと動いた。