『紅』
「いってらっしゃい」
ルームメイトを見送って、部屋の鍵を閉める。
ドアに手を当てたまま、大きく息を吸って、吐き出した。
胸に手を当てると、鼓動が少し早くなっているのが分かる。
腰まで伸ばした青い髪をかき寄せて、少女、浮舟久雨は落ち着くようにと、もう一度大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。
自室に戻り、鞄から小さな紙袋を出す。
丁寧に開けて中身を取り出すと、黒い光沢を放つキャップを外す。
中から現れたのは、赤い口紅であった。
しばし鮮やかな赤に見惚れていたが、前髪が一房、視界に落ちて来た。
赤と青。
対象的な二つの色に自分を重ね、頭を抱える。
この色で良かったのだろうか?
店員に薦められるまま、淡い色を選んでいれば良かっただろうか?
「でも……」私はこの色に、惹かれたのだ。
白い肌、青い瞳と髪に映える、鮮烈な赤。
何かを変えてくれそうな気がして、この色を……選んだ。
震える指で唇に赤いグロスを滑らせると、唇を合わせ、なじませる。
目を閉じて手鏡を探り当てると、顔の前に寄せて、久雨は再び大きく息をつく。
鏡に向けて顔を上げると、長い睫毛が震えるほどに、ゆっくり、ゆっくりと目を開けた。