『歌』-3-
……風の音が聞こえる。
今度こそ、目を開けた。
窓から差し込む、柔らかな冬の陽光。
伸びをして、癖のある赤い髪を掻き上げる。
友人の姿は無い。
梅雨の時期にその友人と作り上げた、一体の人形。
そういえばあの人形は、今どこにあるのだろう?
色々あって友人宅を転々として来たロベルト。
「誰かに預けてあった……はず?」
ゆっくりと記憶を紐解いていくが、しばらくかかりそうだ。
思い出したら友人と逢いに行こう。
人形は変わらぬ笑みを湛えて待っていてくれる筈。
友人に頼んで新しい着物を用意するのも良いかもしれない。
楽しげに考えを巡らせるロベルトは知らずに、あの歌を口ずさんでいた。
『歌』-2-
混乱するロベルトの耳に、歌が届く。傘の女性が歌っているのだろう。
それは故郷の河岸で歌う少女の歌。
便りの人に想いを馳せる少女の歌。
物心ついた時には日本で暮らすロベルトの記憶にある筈もない、遠い北の異国の歌。
脳裏に浮かぶのは針葉樹の森と冷たい川。
どこからか届くリンゴの香り。
乳白色の髪を結いあげた、温かい誰かの背中。
歌い終わって人形が振り返る。
傘の影からようやく覗いた女性の顔。
白磁の肌に乳白色の髪。鮮やかな紫陽花の髪飾り。
傘を持つ手の繋ぎ目。球体関節。
「そうか、なんで忘れてたんだろ」
ロベルトは理解した。
『歌』-1-
雨音が聞こえる。
「いつの間に……」
寝子高星ヶ丘寮、友人の部屋でロベルト・エメリヤノフは目を開けた。
世話になっている友人は用事の為出掛け、ロベルトは暇を持て余していた。
窓から差し込む冬の陽光は心地良く、ついウトウトしていたところだ。
気付けば外は小雨模様。
友人は傘を持って出ただろうか?
心配するロベルトの目に白い傘が留まる。
そう、傘。透けるような和紙が張られた美しい和傘。
窓の外で、その白い和傘がクルクル回って雨を弾いていた。
傘の下には着物の女性。青地に白く抜かれた柳の枝が揺れる艶やかな着物。
「少し季節外れかな?」
揺れる枝の向こうに覗く満月も相まって、感じる違和感。
涼しげな青も、夏の着物に多く用いられるものである。
いや、違和感の正体はそれだけでは無い。
違うのだ。聞こえる音が、見える景色が。
雨音に混じる川のせせらぎ。河岸に咲く紫陽花を愛でながら傘を回す女性。
全てが星ヶ丘寮の一室から見えていた風景とは異なっていた。
ふっふーん!前に作った人形、やっと写真に出来たよ!
【PL】
かなり前に作ったアイテムのイラストを頼ませていただきました。
どうしてもこのアイテムだけは京谷絵師様に頼もうとずっと狙っていましたので、こうして頼めたこと本当に嬉しいです!
麗しくて、表情も人形なのにまるで生きてるみたいですね…!金髪と着物で合うかそわそわしていましたけど、こうして調和していてイイです。傘も素敵です!
着物のデザインも元のアイテム以外の情報は絵師様にお任せしてしまったのですが、素敵に仕上げてくださって…!厳かながら爽やかで、しかし若い彼女に合っていてすごいです。
素敵なイラストありがとうございました!