『指輪』-2-
そして見えた、知らない天井。
彼女は半身を起して、落ち葉に覆われた床を見渡す。
光る何かを見つけると、自身の左手から指輪を抜き取り、共に握ると息を吹きかけ、窓辺の花台に置いた。
立ち上がった彼女の纏う白い衣と羽根の外套が、美しい黒髪と同色に染まっていく。
開いた窓から曇り空を見上げると、青い髪飾りを愛おしげに触って笑みを浮かべる。
「もう誰も、私に命じる事は出来ない」
大きく息を吸い込むと、湿った空気が森の匂いを運んで来た。
漆黒の羽根を拡げ、窓から飛び出す。
古びた洋館を一度だけ振り返ると、彼女は暗い森へと飛び立った。
後には再び、誰も居ない部屋。
黒い羽根が、静かに落ちる。
窓辺の花台では、一つに繋がれた二つの指輪が淡い光を放っていた。
『指輪』-1-
目を開けたら、知らない天井が見えた。
白い天井は所々シミが浮き出て、年代物のシャンデリアには蜘蛛が巣を張っている。
そして部屋中を舞う、黒い羽根。
沢山の窓は一つだけ開いていて、吹き込む風が羽根を踊らせ、横たわる彼女の長い睫毛を揺らした。
力無い左手の指が、自身の羽根の感触を伝えて来る。
彼女は少しずつ状況を理解し始めた。
「ああ……、私は……堕ちたのね……」
青い瞳から、一筋の涙が落ちる。
後悔・嫉妬・憤怒。
天界に居る者が持つ事を許されぬ、幾多の罪の意識。
それらが凝縮した、黒い涙。
それは少しずつ、少しずつ彼女の真白な心を苛んでいった。
秩序を守る為に下される天罰。公平を保つ為に見過ごされる苦しみ。
そして彼女の心を壊した、最後の命令。
それは指輪で誓い合った、同胞の抹殺。
彼女が槍で貫くと、同胞は笑って光に還った。ただ一つ、誓いの指輪だけを残して。
泣き叫ぶ彼女は黒い靄に覆われ、青い稲妻に焼き尽くされた。
PL
コメントが遅くなりました。申し訳ありません。
朽ちた洋館、枯れ葉の積もった部屋、横たわる堕天使、黒い涙、黒い羽根。
イメージ通り、いえ、それ以上の描写に只感激しました。
リテイクにも素早く応じて下さりありがとうございます。