「ふわぁ……だりー」
視界には白い天井、体の下には寝乱れて皺ばんだシーツ。
むきだしの右肩では群れからはぐれたアゲハ蝶がパープルの翅を休めている。
軽薄なレモンイエローの双眸を瞬き、枕元をまさぐって緩慢に携帯を引き寄せる。
「げ、もう昼か」
上半身は裸、下半身は細身のジーパン一丁のしどけない姿態で自堕落に頬杖をつけば、首筋や肩、引き締まった腰に斑に咲き乱れる赤い痣が艶めかしい。
シーツに染みついた残り香と擦れた口紅の痕跡は、酔った勢いで意気投合した女の置き土産。
「さすがにトシかな。オールはきついぜ」
ふと携帯の液晶に目を落とす。
待ち受けには家族写真。
「………」
器用にボタンを操作し次々と画像を呼びだす。
頬を目一杯膨らませ誕生日ケーキの蝋燭を吹き消す娘の写真に頬を緩め、実家の兄弟がじゃれあう写真の微笑ましさに自然と目を細め、撮りためた思い出をうつぶせてスクロールしていた手が止まる。
そこに切り取られていたのは自分によく似た横顔で。
「キスマークの数は俺の勝ちだな」
嘲りに喉を鳴らし意味もなく誇ってみる、そんな自分が滑稽で、それ以上に寂しくて。
「……なーにやってんだか」
遅く起きた朝は不貞寝に限る。