「ちっ、追っ手か」
乱暴に手錠を引き路地裏に身を隠す。
鋭利な眼光で射抜く先を野太い怒号を張り上げ駆けて行くのは破落戸ども。
彼等が追うのは紛れもなくこの自分、そしてずたぼろのシャツ一枚で蹲る赤毛の娘
厄介な事になった。
灰色がかった薄緑の肌、肋骨が浮く程に痩身の男は、忌々しげに舌打ちひとつ傍らで震える娘を睨みつける。
見世物小屋から脱走を企てた理由。
団長の虐待と酷使に耐えかねて。それ以上に自由に憧れて。
素早さと手先の器用さなら自信があった。
自分一人でなら逃げる事もたやすいはずなのにどうして足手まといを連れてきてしまったのか理解に苦しむ。
「しょうがねえだろ、鎖が切れねーんだからよ」
本当にそれだけ?
二人を繋ぐ鎖が耳障りな音をたてる。
ああ、忌々しい……こいつさえいなければ、とまたもや愚痴に流れかけた彼を現実に引き戻したのは、赤毛の娘の潤んだ瞳。
女の泣き顔には弱い。
仕方ない、そういう性分なのだから諦めるしかない。
「……これがホントの腐れ縁ってか」
蛇男とマングース、愛称は最悪なのに。
痛む体を引きずるように立ち上がり、今度は少しばかり優しく鎖を引く
「立て。行くぞ」
二匹の脱出劇、そして二人の逃避行が幕を開ける