眠れない夜、カーテンの隙間からさしこむ月光が寝台に横臥する少女を照らす。
しどけなく肌蹴た胸元、シースルーのネグリジェがたてる衣擦れの音が悩ましい。
傍らには母の形見の音函。
「…………」
上体を起こして気怠く蓋を開ければ、しめやかな闇の中に哀切なメロディが流れ出す。
(母さん……)
物憂げに俯き、オルゴールが奏でる曲に耳を傾ける。
切々とこみ上げる母への憧憬と一抹の疑念、音函に封じられた語られざる恋の記憶と曲に託された想いとが、秋の夜長に煩う少女の多感な心を千々に乱す。
(教えて。本当は誰を愛していたの)
音函の縁をなよやかな指先で辿り、瞼裏に甦る母の面影に娘として、一人の女として問いかける。
(貴女はどうして)
少女もかつて苦い恋を体験した。
でも、若き日の母を襲った運命はさらに過酷で。
知るのが怖い。
何も知らない子供のままでいたい。
唇を噛んで葛藤する少女の目に、音函の仕切りにしまわれた蜻蛉玉が飛び込んでくる。
子供から大人へ羽化しようとしている少女を儚むように月光を照り返し硬質にきらめく蜻蛉玉を手に遊ばせ、そっと接吻する。
真実を知るのは怖い。
無垢で無知な子供のままでいたい。
(でも、私は)
前へ進むの。