「けっしてこの手を離さないでくださいましね」
生ある呪詛の如くうねり狂う黒髪が、蛇じみて淫らに蠢く。
男の首にしどけなく腕を絡め、負われた女が艶めかしく笑う。
「あたくし信じておりますのよ」
男の背中に身を委ねきった女が甘えるように囁いて耳朶を食めば、頭も甘く痺れていく。
行く手には春霞と桜吹雪。一面の櫻の花。
振り向くな。
刹那、禁忌に触れ得んとする直感が奔り快感と戦慄が同時に脊椎を貫く。
俺が今おぶってるのは何だ?
女か?贄か?それとも……
胸裏に渦巻く疑念は森の奥に踏み込むほど嵩み行き、野生の勘働きで女の正体に気付いた男を、さらに抜け出せない深みへと誘いこむ。
「あら、どうなさいましたの」
「テメエは何者だ」
「……見破られてしまいましたの」
ざわりと空気が蠢く。
艶めかしい女の体臭がおどろおどろしい異形の瘴気に豹変、めきめきと歪に頭蓋を軋ませ一対の角が生えだす。
「!ッ、」
振り返りざま太刀を一閃した男から舞うように跳び逃れ、異形の本性を晒した狂い女が哄笑する。
「さあ……櫻の木の下に何が埋まっているか教えてさしあげますわ」
PL
柳子さんをお誘いして豆本アイコン企画に参加しました。
真っ黒い背景に桜吹雪の濃淡が引き立ってとっても幻想的……柳子さんの妖艶な笑みと婀娜っぽく着崩した着物、組長のきりっとした横顔もお気に入りです。
綿串絵師さま、素敵なアイコンありがとうございます!