生きとし生けるもの皆すべてが冥府に招かれたような寂(じゃく)とした夜。
闇の帳が下りて魑魅魍魎が跋扈する刻限。
暗渠に潜み蠢くおどろおどろしい死霊の気配にも怖じず、迷宮の如く入り組んだ路地を吹き抜ける生臭い風にも怯まず、鬼灯を模した提灯のあかりを頼りに一人行くは幼い矮躯。
もう片方の手には祖先祀る廟の香と言霊を焚き染め呪文字をしるした札。
誰知ろう、この幼い少女こそ破邪と退魔を生業とする道士の末裔であると。
ぽつ、ぽつ。
鈴生りに幽き灯がともる。
軒下に吊るされた提灯の他に彷徨う霊魂もまじっているのか。
蛍のように儚く、燐のように淡いその光が、つぶらな目に利発な光を宿し、石畳を敷き詰めた胡同を歩む少女の姿を幻の如く照らしだす。
少女の行く手には何が待つー……?