風を孕んでふくらむカーテンの向こう、爽やかに甘い芳香が漂ってくる。
鼻先を掠める慎ましく甘い匂いに、鏡台の前で朝の身支度を整えていた妙齢の女が顔を上げる。
淡い金髪をきっちりと結い上げ上品なブラウスを着こんだ様は、非の打ちどころない秘書じみて。
完璧すぎる容姿に赤縁のメガネが親しみやすさを足している。
彼女にはすぐわかった。
それは思い出の菫の香り、野に咲く花の香り。
彼女と彼女の主人がまだ幼い頃、手を繋いで辿った森からの帰り道を彩った紫の小花を思い出す。
同時に甦る厨房の記憶、食糧庫に整然と並べられた広口の瓶の中身。
ピクルスにジャム、様々な香辛料と新鮮な季節の味覚。
その中で一際印象に残った菫の花の砂糖漬け、これが紅茶によく合うのだ。
口の中に唾液が湧く。はしたないわと眉をひそめ、几帳面な表情を繕って襟元のタイを締め直す。
「でも、そうね」
今日のおやつは菫の花の砂糖漬けにしましょうか。
あの人も喜ぶでしょう。
あの頃のままの無邪気さで菫の砂糖漬けを匙ですくう主人を想像し、くすりと口許を綻ばせれば、ストイックな美貌が初恋に上せる少女さながらあでやかに色づく。
そしてまた彼女と彼の一日が始まる。
PL:
美しい眼鏡女執事さんきゃっほー。
絵師様、雑な発注分ですいませんでした。
イメージ通りのイラストに、スケジュール帳まで持たせて頂いて感謝感激です。
ありがとうございました。