旧市街の一角で、いつもの光景が見られた。
「おじさんは野鳥の声を録音するのが趣味でね、アンテナを構えてカセットに・・・」
屈みこんだおじさんは、言葉を切って頭を掻く
「海美ちゃんは、カセットなんて知らないよね。ごめんごめん」
海美と呼ばれた幼女は首を横に振り、否定する。
「カセットテープって、おうたとか、らくごをろくおんする、むかしのメディアでしょ? わたしわかるよ」
おじさんは驚き、嬉しそうに膝を乗り出す
「海美ちゃんは賢いね~。お父さんが昔のカセットを大事にしてるのかな?」
「えっとね。あ、おかあさん!」
答えようと口を開いた海美は、おじさんの背後に見慣れた人影を発見し、手を振る。
母親は、すいません相手をして頂いて、と頭を下げ、海美と手を繋ぎ歩き出す。
「あの人、お友達のお父さんか誰か?」
母親の問いに、海美は
「しらないひと!」
と元気に答える。
人見知りの無さ過ぎる娘の笑顔に、苦笑で答えながら
「そう言えば海美ちゃん、カセットテープなんて、どこで見たの? お母さんも見た事無いのに、良く知ってるわね」
「え?」
愛らしく首を傾げる娘を見て、母親は背筋に、冷たい汗を感じた気がした。