『黒い靄』-3-
中を覗くと、暗い部屋に少女が浮かんでいた。
たゆたう金髪。折れた首、白いワンピース。捻じれた足。手を繋いだテディベア。
青白い光に包まれた少女の元へ寄ろうと、部屋に一歩踏み入れた時、声が聞こえた。
「タ・・・・・・ス・・・・・・ケ・・・・・・テ・・・・・・」
足が、止まる。
「タス・・・・・・ケ・・・・・・。タ……ス……。タス……ケ……テ……」
折れた首が、さらに捻じれる。
少女の大きな目が開いた。
絶望に満ちた少女の悲鳴に大気が震える。
暗い双眸から、あの靄が現れる。
足元からは、水が滲み出して来た。
水位は瞬く間に上がり、慌てて外に飛び出たが、廊下も同じ状況だった。
顎まで上がった水位に覚悟を決め、大きく息を吸い込んだ少年は、違和感を覚える。
「濡れた感触が無い?」
それは日頃から、部活で水に親しむ少年だからこその気付きだった。
溜めた息を一気に吐き出し、少年は廊下を駆ける。
廊下を満たした水の中を、纏わりつく泡沫を払いながら。
口惜しそうに蠢く靄を尻目に呟く。
「幻覚ね。少しは見えてきたかな?」
けして諦めぬ少年の洞察力が、廃墟を支配する幻にヒビを入れた。
『黒い靄』-2-
不思議なのは、散って逃げた仲間の姿が見えぬ事。
どちらを見ても真っ直ぐな廊下が続くばかりのこの場所で、はぐれる事などあり得るだろうか?
「フツウじゃ無い……って事かな。慣れてるけどね」
黒い短髪を掻き上げながら、辺りを見渡す。
果て無き廊下、何の変哲も無い茶色の鉄扉、鍵穴の無いノブ、ドアの上には部屋番号の表示。
「番号は『にー97』か」
正面が左が『にー97』、右が『にー99』。
背面は左が『にー98』、右が『ほー01』。
「『いろは……』かな?」
時計を確認する。
依頼を受けての調査。対象の廃墟ホテルに入ってから、それほど時間は過ぎて無い。
エントランスを抜け階段を上がり、二階に出てからこの状況は始まった。
消えていた筈の灯が突然明滅を始め、全ての懐中電灯が煙を上げ消えた。
瞬く蛍光灯が消えて一瞬闇が訪れ、再び明滅を始めた時、景色は一変していた。
いずれにしても、ここを出る為のナニカを探さなければならない。
鋭い目線が、数メートル先の文字を捉えた。
『タスケテ』縋る様な手の痕と共に、ソレは血で書かれていた。
少年は壁から背を離すと、文字を確認して隣のドアに手を掛ける。
慎重に引く。黒い靄は……現れない。
『黒い靄』-1-
無数のドアが両側に並ぶ、コンクリートの無機質な廊下。
不規則に明滅する蛍光灯が先を照らすが、果ては見えず、振り返ってもその光景は変わらない。
志波武道は壁に寄りかかり、眼鏡を取る。
「キッツイなー、コレ」
努めて明るい調子で声を発し、滲み入る負の感情を吐き出す。
レンズに付いた血を拭い、掛け直すと少年は状況を整理する。
はぐれた仲間の居場所は見当もつかない。
手掛かりを求めドアを開けると、黒い靄が現れ、そこから血濡れの手が伸びて来た。
寸でのところで避けた手は、顔を掠めて壁を掴み、ベタベタと痕を付けた。
体は、見えなかった。
黒い靄はドアから離れられない様で、数メートル離れれば、それ以上は追って来ない。
問題はそのドアが、それこそ果て無く並んで有るという事だろう。
フッフッフー信彦くんも俺のかっこよさについに気づいたかってあッハイスンマセンチョウシコキマシタ!
タイトルを入れるとしたら「脱出」は入れたい所だよなーさぁ信彦くんもこの怪異にいどむんDA☆
ブドー先輩が超カッコイイ!
映画の広告っぽい構図と雰囲気に惚れ惚れしちゃうね
HAHAHAそんなことナッシング☆
俺は単なるお人よしな幕間ピエロだぜぃテヘペロ!
ただのお調子者じゃなかったんだねぇ
『さて、どうするか…情報探索組から離れてたのは幸いだが…』
『かといってコレ連れたまま合流する訳にもいかない…危険を知らせたほうがいいか』
『あとは…あの部屋にあったモノを使ってみるか、よし』
「うわぁんついてこないでぇ―!」
『考えを覚られないよう…ほら、怖がって逃げてるエモノがいるぞ』
「オソワレルゥー!!イーヤァーーーー!」
『このまま俺に、ツいてこい…!』
―絶対に、みんな揃って脱出してやる―
<PL>
シナリオで怪現象ホラー系のものに参加することが多くなってきたので、ホラー怪奇をイメージするフリーイラストを頼ませていただきました。
疾走感がすごい…かっこいい…!
背景や構図は大体の物を指定して細かい所はお任せにしていましたが…無数の非常口とか、ドアから出てくる黒い影とか、廊下の奥にいる人影とか、バイオレンスでなく静かにゾワリとくるものがあって嬉しかったです。
気泡があって水中なのか曖昧になってる所がさらに奇々怪々具合をあげてて…イイ!
怖いはずなんだけど、見てると滾ってくるような一枚をありがとうございました!