『答え』-3-
隣のクラスもHRが終わった様で、チラホラと人が出て来た。
すれ違った数人の友人たちを見送った蘭月の視界が、彼を捕らえる。
慌てて目を逸らしてしまい、廊下の壁に背を預けると、そこで固まった。
後悔、愛しさ、羞恥。様々な感情が蘭月を襲う。
加速する鼓動を抑えるように胸に手を置き、固く握りしめた。
彼が近付いて来る。
顔が熱い。赤くなっていくのが自分でも分かる。
耐えきれなくて、目を閉じてしまった。
「-----」
一言だけ、蘭月にしか聞こえない小さな声が、怯える心に届いた。
破れてしまいそうだった心臓は、徐々に落ち着きを取り戻す。
恐る恐る目を開けると、遠ざかる彼の背中が見えた。
声を掛けようとしたが、力が抜けて音が出ない。
行き場を失くした想いは瞳から溢れ、頬を濡らす。
慌ててリボンを解き、髪で顔を隠した。
俯きながら、呟く。
「明日ちゃんと、お話しよな?」
茶色の髪の奥で少女は笑みを浮かべ、壁にそっと、体を預けた。
『答え』-2-
蘭月は再び空を眺める。
「たぶん、積もらへんよね」
勢いの無い降り様に溜息と共に呟くと、視線をカバンに移す。
早朝、そこに入っていたチョコレートはメッセージカードと共にオレンジ色のリボンで結ばれ、隣のクラスの男子の机に入れて来た。
直接渡す勇気を持てず、小さなカードに全てを託した。
ここまで何度か廊下ですれ違ったが、期待した反応は得られなかった。
それは互いに一人では無く、友人たちと一緒だったせいかもしれない。それとも……。
不安を振り払う様に髪を揺らし、胸に手を当て大きく息をつく。
そして最後の授業が終わった。
HRが終わると、それぞれが行動を起こす。
ある者は部室棟へ駆け出し、ある者は校舎裏へ重い歩を進める。
ポケットに手を入れ肩を落として帰宅する者、涙を浮かべて友人に慰められている者。
蘭月は教室前の廊下に一人立っていた。
友人たちは気を使って近寄って来ない。遠くから仕草で励まされた。
力無く振り返す手に、今精一杯の感謝を込める。
『答え』-1-
今年、何度目かの雪が曇天に舞い、ひと片窓に貼り付いた。
ツインテールの片方を弄びながら、それが溶けゆく様をボンヤリと眺める。
寝子高1-3の教室で少女、四野辺蘭月は今日最後の授業が終わるのを待っていた。
教室内はいつもと違い、皆落ち着きの無い様相である。
ある男子は何度も机の引き出しに手を入れ、その度締まりの無い顔で虚空を見つめる。
隣の男子はそれを見て、自分も引き出しやカバンを探るが、こちらはその度に落胆の表情を浮かべ、ゆっくりと首を横に振るのだった。
ある女子が回したメモ書きが最前列に座る黒髪の少女に渡ると、女子が数人色めき立つ。黒髪の少女が先生の隙を見て振り返り、片手で否定の意を表すと、ある女子は不満を示し、一人の女子は安堵に胸を撫で下ろす。
年に一度の今日この日。
想いを込めたチョコが行き交うバレンタインデーの魔力に、教室全体が捕われていた。
>斉田ちゃん
悪い子ぉやないんは分かってるんやけど……、もぉちょっと……。
>難波くん
将来とか、そこまで進んでへんやろが!
こういうところがなぁ……。
で、二人ともなんの話してるのん?
>御崎
せやで!将来を誓い合った仲や!(ドヤァ)
>蘭月
(がーん)ら、蘭月にとってはただの友達だったのか……
どうせ俺なんて(しゃがみこんでのの字を書く)
>斉田
フォローサンキュ!俺にも味方がいたぜやったー
等身大フィギュアの事は内緒にしてくれ(耳打ち)
まぁ、辰殿はスケベじゃが悪い奴では無い
いつかは友達の壁を越えて欲しい物じゃのう…
(…前に等身大スケールの蘭月殿のフィギュアを作って欲しいと言われた事は黙っておこう…)
>御崎ちゃん
とっ、友達やもん…。
>難波くん
オレオレ詐欺か! それとも結婚詐欺か!
~~~
PL:表情が初々しくてすごくかわいいです。ありがとうございます。
え…!?
もしかして、君たちってそういう関係…?(陰で盗み見
蘭月俺やーーー結婚してくれーーーー!!