【1】
〜某月某日 校内のどこか〜
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それで?それを私に聞いてどうしようと?
「知りたいから」?
なるほど、それはまた私を呼び止めるに十分すぎる理由ですね!
謎があれば解きたいし隠されたものは見たい……ああ、まったく自然なことでしょうね?
ではなぜ私に?
ふむ、まあいいでしょう。
あなたが取り得る中で二番目に危険な選択でしたが、その分だけ報いられるでしょうよ。
痛み無くして得るものなしとも言いますしね。
紅茶でも飲みますか?
さて、どうせ彼女の容姿に惹かれて興味を抱いた口でしょうが、彼女がアニメやゲームに出てくるような、人に愛されるために生まれてきたような一山いくらな美少女ではないという認識はあるでしょうね?
そう、知りたがりで人の気持ちを推し量るのが苦手な少女のような何か。
私もあの日会うまではその程度だろうと見立てていました。
しかし彼女の本質はそんな浅瀬には無かった。
間違ってはいなくとも、それで彼女を理解しているというのであれば、彼女の容姿だけを見て可憐な乙女だと評するのと同じくらいずれている。
「経験」を嗜好できる。
【2】
それが、あなたが知りたがっている彼女の「本質」です。
少なくとも私はそう考えています。
感覚的、非感覚的を問わず、彼女はあらゆる経験に対し法悦を抱くことができる。
一瞬ごとに生じる感覚様相と、それに伴い生じる思考や感情……それら全てを快楽として受け入れることができるんですよ、あれは。
つまり……彼女はただ存在しているだけで幸福なんです。
拷問にかけようと、彼女はその苦痛を嗜好できる。
親しい人間を傷つけようと、彼女はその愁傷を嗜好できる。
故に、彼女は耽溺し続ける……その頭蓋の中の小さな楽園の中でね。
大げさ過ぎるという顔ですね。
しかしあなたはその違和感に気づいている。
友達になれそうな程度には根はいい人間と思わせながら、薄皮一枚を隔てた先には永遠の隔たりが横たわる……そんな人間味を感じさせない在り方を。
そうでなければ私から話を聞こうとは思わない。
あの日に何が起きたか聞きたいと?
大したことではありませんよ、あれくらいの小競り合い、いつもの寝子島のどんちゃん騒ぎに比べればね。
その後の経過はそうでもありませんでしたが。
投じられた一石により生じた波は、忍びやかに水面を伝っていったようですよ。
【3】
よく分からない?そうですか、そこは本題ではないので私はそれについては語りません。
その時に生じた変化というものは……無論、それまでの大小様々な堆積抜きにそれを語ることはできないでしょうが……今になって思うに、彼女の存在も一因となっていたのかもしれませんね?
言葉は通じるのに、分かり合うことは永劫ないと予感させる相手に直面すれば、誰もが寄る辺なさを感じるものです。
あの騒動は少なからず彼女の狂気にあてられたものだ、と言ったら流石に穿ち過ぎですかね。
はっ、そいつは笑えますね。
自分の髪の毛を数えることに没頭するような相手の心を動かすような働きかけが、あなたにならできるとでも?
なら最後に面白いものを見せてあげますよ。
騒動が終わった後に、ねこったーで流れたつぶやきです。
https://rakkami.com/scenario/reaction/203?p=20
まさに、「これ」なんですよ。
冴えたジョークです。
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日光瀬きらら(「あなたの秘密を教えて」より)