最近、オリアスと話す機会があったので、
もし人の姿を為していたらどんな姿なのかと気にはなっていたがこういう奴だったんだな。
黒い骨翼や黒(蒼か…?)に身を包んだドレスなど、悪くねぇ。
ベールで顔が見えないところがミステリアスで尚良いと思う。綺麗だな。
自分も格好よく描いてもらえて満足だ。
円山絵師には感謝を。有難く使わせてもらうぜ。
「主様はこのあたくしが認めた”唯一無二”。でもあたくしを扱うに相応しくない…値しないと判断したら」
一旦、言葉を区切り、赤いルージュを携えてオリアスは微笑む。首に絡む腕は氷のように冷たい。
「容赦なく斬り捨てますわ」
「…お前に言われるまでもねぇ。奏者が自分であったことを幸運に思え」
振り向かずに彼は悪魔に触れて、堂々と言い放つ。
それに気を良くしたようにオリアスはクスクスと肩を揺らした。
「うふふ。あたくしはね、主様のことを本当に気に入っておりますの。蒼炎燻ぶらせる雛鳥が足掻いて足掻いて、一人立ちして飛び立つその日を待っていますのよ」
「自分のことを幼子扱いするのはやめろ」
「あら、あたくしからしたら赤子同然ですわ。一代目の時と同様に、主様はあたくしの本当の真価にまだ辿り着いておりませんですし」
「真価?」
「えぇ、秘めたる力の解放はいつかしらね?期待しておりますわ」
人の心はいとも簡単に黒く染まる。
他愛無い言葉が鋭利に深く刺さり、徐々に蝕んでいく。
転機は寝子島へ来る前の事件。その日は鈍色の空模様でしきりに雨粒が降り注いでいた。
あまりよく覚えていないのは幸いか。
――否、ただ記憶に蓋をしただけで、実際には忘れてはいない。
目の前には壊されたヴァイオリンの残骸と横たわる人。
噎せ返るほど強烈な血の匂い。怒声、悲鳴。砕ける骨や裂けた肉片。穢れた己自身の手。
ぷつん。
滴る赤は外の世界から彼の心を完全に切り離した。
それと引き換えに手に入れた悪魔の力。―HeaRing pAraLySis―
“Orias”と名乗る悪魔は、嗤って手を差し伸べる。
元々、兆候はあった。単なる切欠に救われたのは事実で、受け入れたのも自分の意志。
孤独は彼の音をより蠱惑的に、そして歪みから生まれた甘い毒は人々を狂わせ魅了する。
常に高みへと上りつめ、彼は異才と称されるまでに至った。
音を楽しむことは次第に薄れていく中、変化が生じる。
雁字搦めに捕われていた枷は、寝子島に来てから少しずつ解かれていく。